これは俺様の推測だがな
戻って別の部屋の扉を、今度はキコリは壊すことなく開けることができた。
鍵がかかっていなかったから、というだけの理由だが重要なことだ。
ともかくキコリたちが扉を開けると、そこはどうやら厨房であるようだった。
……だが、キコリがそこに感じたのは違和感。しかし理由にすぐに思い至り「ああ」と声をあげる。
「此処……魔石道具が……マジックアイテムが、ないんだ」
「あ?」
「あるんだよ、魔石を使って生活を便利にする道具が」
だが、此処にはそれがない。
コンロではなくかまど、水道は当然のように無く水瓶のようなものがある。
魔石を利用した道具など、何処にもない。この建物がダンジョンの中にあることを考えれば、随分昔のものであることは間違いないが、家庭用の魔石道具が無いとなると、とんでもなく昔の建物であるのかもしれない。
「思った以上に昔の建物みたいだな。もしかすると、汚染地域って呼ばれた頃よりも更に昔なんじゃないか?」
「あー、そうなると俺様も生まれてねえな。シャルシャーンが『完全体』だった頃の話じゃねえか?」
「そういえば今みたいになる『前』があるんだったか? 汚染区域が出来た時にそうなったんだろ?」
「違ぇよ。なんだその話。シャルシャーンのボケに誤魔化されでもしたのか?」
「え? いや、でも他にそんな大事件は」
「マジに言ってんなら大したクソボケだな、お前」
アイアースは大きく溜息をつくと、自分自身を指差してみせる。
「おかしいと思わねえのか。ドラゴンは竜神の直属の部下みてえなもんだ。そんなのに俺様みたいなのが居ることをよ」
「いや、そりゃあ……他のドラゴンから全然良い話聞かないし、なんでシャルシャーンに殺されないんだろうとは思ってたけどな。たぶん出来るのにやってないだけだろ?」
「お、おう。お前結構ズバズバ言い過ぎじゃね?」
言いながら、アイアースは「まあ、いいけどよ」と咳払いする。
「あ、いいのか。言いながらちょっとヤバいかなとは思ったんだが」
「おい」
「でもまあ、下手に誤魔化しても怒りそうだし言うのが一番安全だと思ったんだ」
「すげえ。気を遣われるのって、こんなにブチ殺したくなるんだな」
そんな程度で怒るかカス、と叫びながらアイアースはキコリの足を何度か蹴るが、それで気が済んだのか大きく息を吐く。
「これは俺様の推測だがな。誰も覚えてねえんだろうよ。そのくれぇ昔々の……お前みたいなド新人どころか、俺様たちみてぇなドラゴンでも知らねえほどの……そのくらい昔に『何か』があったんだろうな」
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