このダンジョンという場所
戦場に満ちていた「ありえない穏やかな空気」が一掃される。
キコリの放った殺気に塗り替えられ、ドラゴンの魔力の籠った殺気はサンゴの放つ精神安定魔法を弾いていく。
そして、自らの中を殺気で満たしたキコリが片っ端からサンゴを叩き切っていく。
サンゴは触手のようなものを伸ばすが、キコリは止まらず真正面からサンゴに斧を振り下ろす。
切り裂かれたサンゴは海の中に体液のようなものを撒き散らし、「サンゴそのもの」はそんなに強くないことをその死に様をもって示していた。
「オルフェ、フェイム! ドドを!」
「りょーかい!」
「しょ、承知!」
キコリが何をしようとしているか理解したオルフェも、理解できていないなりに察したフェイムもドドを引っ張って持ち上げ上へと昇る。
何をしようとしているか。その答えは、キコリの掲げた手に。
「グングニル!」
その手に現れた光の槍を投擲すれば、海底の砂の中に潜んでいた無数のハサミ虫が爆発の中で消し飛んでいく。
同時に水の中を砂が舞い視界が塞がれるが……キコリはそこに更にグングニルを撃ち込んでいく。
やがて視界が元に戻った頃には、そこには穴の開いた海底だけが残っている。
「うーわ、随分やったわねえ……」
「うむ……しかし、その。派手だった割には威力はそれほどでも……」
フェイムの遠慮がちな言葉にキコリは思わず苦笑してしまう。
何しろ、フェイムの言っていることは正しいからだ。
「まあな。俺じゃあ、魔力をたっぷり使えてもこの程度だ」
建物を壊すくらいなら出来る。弱いモンスターを殺す程度なら出来るだろう。
しかし、それ以上は無理だ。結局のところキコリは魔法にとことん才能がない。
唯一使いこなせるのがミョルニルとブレイクであって、要は飛び道具的な魔法の才能がないのだろう。
「ま、それでもいいさ。何も1人で全部出来る必要はないんだ」
そう、キコリのやるべきは真正面からの戦いだ。魔法はオルフェが使った方がずっと良いしずっと強い。
守りは、今はドドもいる。悪魔の鎧は壊れてしまったが、それでもかなり頼りになる。
フェイムは……まあ、キコリにはよく分からないがキコリよりはずっと魔法が得意なはずだ。
「それより、片付いたんだ。早く行こう」
海のモンスターたちは今の衝撃で逃げ出したのか、寄ってくる事は無い。
キコリたちは何の障害もないままに海底を歩き……何度か魔法をかけ直しながら進んでいく。
ふとキコリが見下ろした海底には、錆びてボロボロに腐食した剣が転がっていた。
いつのものかは分からないが……あるいは、船でこの海を渡ろうとした誰かの忘れ物なのかもしれない。
拾う価値もない、これからも拾われないだろう剣の残骸は……このダンジョンという場所に生きる者の末路を示すかのようだった。
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