逃げられないなら
角兎とゴブリンの魔石を回収して、キコリは奥へと進む。
あまり方向を変えてウロチョロすると迷うことくらいは分かっている。
だからこそ、基本的にキコリは真っすぐ進む。
「……あまり奥には行けないな。何が出てくるか分からないし」
しばらく進んでみて、周囲にモンスターの影がないことを確認するとキコリは身を翻す。
来た道を戻って。平原が見えてきた辺りで、キコリは小さく息を吐く。
(少し安全策を取り過ぎたか? でも迷ってもどうしようもないしな……)
こればかりは経験を重ねるしかないが、ひょっとしたら何か解決策があるかもしれない。
キコリの頭に浮かぶ「相談できる人」はアリアくらいだが……。
もう1回ウォークライを試してみようかと、キコリがそう思い始めた矢先。
ガサリと、右側から音が聞こえてくる。
ゴブリンか角兎か。キコリが斧を構えて振り向くと、そこにはゴブリンの姿がある。
何か首元に巻き付けて……いや、あれは……指?
注意深く観察していたキコリは、すぐに気付く。
木の陰にいる、ゴブリンの首を絞めながら持ち上げているソレに。
巨大な身体、まるでイノシシを思わせる頭。そう、間違いなくそれは。
(オーク……!? なんでこんなところに!)
汚染地域の法則でいえば、オークがこんなところにいるはずがない。
しかし、実際に居る。ゴブリンを殺しているところからみて、ゴブリンが何かをやったのだろうか?
とにかく、逃げなくてはならない。キコリはそっとその場を離れようとして。
しかし……ゴウ、と音をたてて何かが飛んでくる。
「なっ……うあっ!」
それは、ゴブリンの死骸。首の折れたソレをオークが石のように投げつけてきたのだ。
相応の質量を持ったゴブリンの死骸はキコリを向かい側の木に強く叩きつける。
胸部鎧のおかげで然程のダメージはないが、それでもゴホッとキコリは咳き込む。
ズン、ズンと。こちらに向かって歩いてくるオークの顔を、キコリは見た。
にんまり、と。嗜虐的な笑み。
その手に持つ鉈のような剣が、なんとも恐ろしい。
しかし、もう逃げられない。
オークの目が言っている。逃がさない、と。
戦うしかない。どう考えても身体能力では敵わない。
逃げたところで後ろからバッサリやられるだけだ。
なら、ならば。戦って……勝つしか、ないのだ。
「逃げられないなら……やるしか、ない……!」
キコリは斧を構え、オークと向かい合う。
殺意を籠めて、お前を殺してやると叫ぶ。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
決死のウォークライは、オークのウォークライにあっさりと吹き飛ばされる。
ぶわり、と。全身から恐怖の汗が吹き出すのを、キコリの身体はやめようとしなかった。
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