あいつを殺してやる
汗が流れる。身体が委縮しているのを感じる。
オークのウォークライが、キコリを確実に「弱く」していた。
「ガアアアアアア!」
「うっ、く……!」
ガアン、と。地面を砕く一撃をキコリはなんとか避ける。
速い、そして強い。マトモに受ければキコリの腕など簡単にへし折れるだろう。
だが、それよりも何よりも。
(くそっ、ダメだ。ビビッて動けない……立て直さないと!)
やるしかない。
此処から立て直すには、ウォークライしかない。
キコリは散りかけた殺意を再び集める。
あいつを殺してやる、と。息を吸い込み吠える。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
叫ぶ。空気を震わせキコリは吠える。
殺意が身体に満ちる。恐怖が身体から抜けていく。
メンタルが、脅える獲物から戦士のものへと切り替わる。
実力差は何も変わらない。けれど、心くらいは。
「ブオオオオオオオ!」
オークが叫ぶ。ウォークライではない。
単純にお前を殺すくらいの意味だったのだろう。
巨大な鉈剣を大上段から振るって。キコリはそれを難なく避ける。
胴体はがら空き。特に防具もつけてはいない。ならば、簡単に。
全力で振り下ろした斧は……しかし、何にも当たらず空振り地面に突き刺さる。
響くのはズン、という着地音。斧の軌道のその先に、オークの姿はあった。
「バック、ステップ……?」
バアン、と。凄まじい音をたててキコリの身体が吹っ飛ぶ。
鉈剣をそのままにして、オークのショルダータックルがキコリを吹っ飛ばしたのだ。
武器を手放すという予想外の攻撃にキコリは反応も出来ないままに吹っ飛ばされ、後方の木に叩きつけられる。
「か、は……っ」
頭がグラグラする。全身が激しく痛む。ウォークライでかき集めた殺意など、とっくに吹き飛んでいた。
それでも、よろよろと立ち上がる。まだ、斧はこの手にある。
鉈剣を拾い歩いてくるオークに、キコリは斧を向ける。
まだ戦える。まだ、死んでいない。
「うあああああああああああああああ!」
オークが嗤う。嘲笑う。こいつはそれしか出来ないと、侮るように。
それは事実だ。キコリにはこれしかない。
だから、だから斧を振りかぶって。
……けれど、振り下ろさない。
「!?」
バックステップで遠ざかったオークの、驚愕の表情が見える。
その顔面に向けて、キコリは斧をぶん投げる。
「ギッ……」
斧が、突き刺さる。オークの身体が硬直したその瞬間に、キコリはナイフを抜き放ちオークに突き刺す。
ズン、と。その身体が背後に倒れたのを見て。
キコリは安心できずにしばらく隠れて。もう1本のナイフを投擲してオークが何も反応しなかったのを確認すると、全身の力が抜けたようにその場にへたり込んだ。
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