ちょっとその感覚は分かんない

「あー……そういえば」

「ん?」

「家、どうしような。壊れちゃったし、もう朝だし」

「呑気な悩みねえ」

「切実だと思うんだが」


 キコリが言えば、オルフェは呆れたように首を振る。


「あのさー。命狙われてるって覚えてる? 労働で吹き飛んだ?」

「いや、覚えてるさ。でもそれはジタバタしてもどうしようもないだろ」

「そうかもしんないけど」

「とりあえず万全の態勢で戦うしかない。自己紹介しちゃったからな……」

「何の関係があんのよ」

「俺の名前を連呼しながら此処襲われても、困る」


 言われてオルフェも「あー……」と納得したように声をあげてしまう。

 オルフェとしては別に逃げてもいいと思うのだが、確かにそれは色々と問題がありそうだ。

 キコリは何処だと叫びながら化け物が暴れて、生き残りがあちこちに拡散したら、それは……面倒ごとの極致といった感じではある。


「ならどうすんのよ」

「そりゃまあ……こっちから行くしかないだろ」

「ま、そうなるわね」


 人前では使いにくい技だってある。

 何の気兼ねもなく戦おうというのであれば、キコリが出向く方が早い。

 今までのことを考えれば「生きている町」に出向けば出てくるであろうことも想像できるからだ。


「で、いつ行くの?」

「すぐがいいだろうな。たぶん、もう準備を始めてるはずだ」

「……ん?」


 そこで、オルフェは首を傾げてしまう。


「ちょっと。それならのんびり片づけに参加してないで出発した方がよかったんじゃない?」

「かもな。でも……それは不義理だろ」

「何の義理があるってーのよ、此処に」

「あまりないけど。でもまあ、俺には関係ないで済ますようになったら終わりって気がしないか?」

「ちょっとその感覚は分かんない」

「はは、そっか」

「でもまあ、そういうもんなんだろうな……とは思うわ」


 オルフェが言えば、キコリは嬉しそうに頷く。


(ま、やるかやらないかで言えば、あたしはやらないけど。たぶん人間性がどうこうって話なのよね)


 ならば別にオルフェとしては何か言う必要もない。キコリが自分が人間側でいる為に無意識に打ち込んでいる楔なのだろうと理解できるからだ。


「じゃあ、これから行くって事よね」

「ああ。荷物を纏めたら行こう」

「荷物ねえ……」


 1階にあったものは使い物にならなくなっているだろうし、そうなると2階にあるもの限定になるが……階段は壊れている。というか壊した。


「アンタ、2階の窓までジャンプすんの? 色々大丈夫?」

「すげえ不審者だな、それ……」


 キコリはジャンプして2階の窓から出入りして荷物を運び出す自分を想像して……物凄くげんなりした気分になってしまう。

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