その道しか知らない

「キコリか」

「ああ。力を貸してくれるって聞いた。ありがとう、ヴォルカニオン」

「気にするな。しかし……」


 ヴォルカニオンはヴォルカニオンを知る者からすれば驚くほどの穏やかさを見せながらキコリをじっと見つめる。それはキコリの中にある何かを見透かすかのようで、やがて何かに納得したように声をあげる。


「おかしな進化を遂げたものだ。破壊神の力とやらの影響なのだろうが……」

「気に入らないか?」

「我がどう思うかではない。その力をどう使うのか。それだけの話だろう」

「そうだな」


 ヴォルカニオンらしい、とキコリは思う。そして確かにその通りではあるのだろうと思う。

 やはりヴォルカニオンは尊敬できる……そんなことをキコリは思い頷くが、そんなキコリにヴォルカニオンは更に問いを重ねる。


「それで? 覚悟は出来たのか」

「覚悟? そんなものは」


 いつだって、と言おうとして。キコリとヴォルカニオンの中にユグトレイルの声が響く。


『破壊神との戦いは、今までの戦いより余程厳しいものになるはずです。心残りはないか、とヴォルカニオンは心配しているのですよ』

「くだらない口を挟むなユグトレイル。焼かれたいか」

『私とてキコリが最初に来てくれなかったことに傷ついているのですよヴォルカニオン。このくらいは当然の権利でしょう』

「うわ、また頭の中に……」

『キコリ。貴方が私の元に来たときの理由を私は覚えています。あのとき救った人間と会わなくて良いのですか』


 アリアのことだ、とキコリは思う。確かに気にならないといえば噓になる。人間のときのことをほとんど忘れ去っても、彼女のことはまだ覚えている。

 けれど、けれども。キコリはすでに選んだのだ。彼女に会う理由を、今のキコリは持ち合わせていない。


「……今更会う理由がないんだ。あの人が今の俺を受け入れてくれたとしても、そうでなかったとしても……悲しませることにしかならないから」

「そうかもしれんな。ドラゴンであり、破壊神の力をも持つ。ついでにいえば、あの妖精娘を選んだのだろう?」

『ほう!』


 キコリがギクリと肩を震わせ、ユグトレイルからは思念でも分かる楽しそうな声が聞こえてくる。


「それが良いとも悪いとも言わんが、貴様は幾つもの手をとれるほど小器用ではあるまい」

「……まあ、それは」

「どのみち、貴様の行く先はこれからも普通ではない。あの娘なら、貴様と共に何処までも堕ちるだろうよ」


 ドラゴンになるということは、ただひたすら堕ちていくということだ。そしてキコリにとって戦うことは守ること。そして、失うこと。

 それが大事な誰かを悲しませると分かっていて……それでもキコリは、その道しか知らない。

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