間違っている

「……ヴォルカニオン。俺は、選ぶ道を間違えたのかな?」

「ほう?」

「進んできた道に後悔はない。でも、それがオルフェを巻き込むものだったなら……それだけは、間違いだったようにも思うんだ」


 オルフェとの出会いは、今思い返しても良いものではなかった。まあ、初見で殺されかかったのだから当然だ。あそこでキコリの人生が終わっていても、決して不思議ではなかった。

 けれど、そこからは決して悪くはなかった。いや……良かったといっていい。本当に楽しい時間だった。

 仲間というものが何か。相棒というものが何か。そして、愛されるということが何か。

 キコリはその全部をオルフェから与えられた。返せているかは正直分からないが、返せていると信じたいところではある。

 だからこそ。自分の存在がオルフェに本来与えられるべきだった全てを放棄させているとしたら、それはキコリにとっては本意ではない。そんな気持ちがキコリの中から弱音として出てきたのだろう。

 今更何を、という話ではある。しかしここまでキコリは自分を振り返る余裕などないままに駆け抜けてきた。だからこそ今この瞬間、自分の走ってきた道が正しかったか気になるのだろう。

 オルフェであれば肯定してくれる。それを知っているからこそ、キコリはヴォルカニオンにそれを聞いたのだ。


「キコリ。正しいか間違っているかでいうのであれば、我はこう答えよう」


 だからこそ、ヴォルカニオンは一切の容赦なくそれを告げる。


「間違っている。ドラゴンになるような人生など、間違っているに決まっているだろう」

「そう、なのか」

「当然だ。とはいえ貴様の場合はシャルシャーンの如きカスに見込まれた不幸もあるが、その間違いがなければ妖精は貴様と共にはなかっただろう。それ自体は救いではないのか?」

「……救いだから困ってる」

「今更だ。此処まで堕ちてきて、やはり巻き込みたくなかった、などと。試しに言ってみろ。どういう反応を示すか見ていてやる」

「うっ」


 どういう反応をオルフェが示すか……分かり切っている。

 最低でも激怒するし、殴られるだろう。もしかすると嫌われるかもしれない。

 あまりにも分かり切った答えであるだけに、しかし。それでもキコリは考えてしまうのだ。

 そうではなかった可能性も、あるのではないかと。


『可能性の分岐、ですか。昔、グラウザードがそんなことを言っていましたね』

「グラウザードが……それで、アイツは何か言ってましたか?」

『何も。ですがそんなもの、気にする必要はないのでは?』

「え?」

『それは選ばなかったのですから。貴方には関係のないことです。そうでしょう?』

「まあ、それは……」

『それに。「もしも」を問うのは貴方のパートナーたる妖精にも失礼でしょう』

「貴様は黙れ。妖精側でものを語るな」


 ヴォルカニオンの大きな溜息が熱風となって。フレインの町の壁に吹き付けていた。

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