破壊神ゼルベクト

 はっきり言って、キコリの顔色はそれほど良くはない。まだ回復したばかりな上に、死にかけた状態だったのだ。

 無茶をすることにも死にかけることにも慣れているキコリだからこそ、こうして立てている。

 あまりにも嫌なその慣れと適応は、キコリらしい姿ではあるが……そうであるだけに、その強い意志も透けて見える。


「ドンドリウス。アンタが俺を認める必要は、別にない。ゼルベクトの転生体だっていうのも、たぶん事実なんだろうと思う」

「そうか。ならば自分の危険性についても理解しているな」

「危険、ね。世間的にはアンタのほうが危険だ。今までアンタの町に来たモンスターたち……どうした?」


 そう、今までドンドリウスにフレインの町が送った使者は全員帰ってこなかった。ならば、その答えは決まっている。


「殺した。私の領域を侵せば当然そうなる。君たちが例外なだけだ」

「そうだよな。ヴォルカニオンでも同じことを言うだろう。だからドラゴンは『危険』って言われてる。人間からも、モンスターからも」

「それがどうした? ドラゴンが守るべきは世界の安定だ。慣れ合うのが役目ではない」

「そうか。なら世界の歪みは進むな。暴走した大地の記憶に飲み込まれて、生きてるものは全部デモンに変わるぞ」


 そう、大地の記憶から生まれるデモンは滅びない。だからこそモンスターたちは自分たちがデモンに滅ぼされないように、なり変わられないように策を講じ始めている。

 だというのに、ドラゴンがこうでは……意味がない。他の今までキコリたちが出会ったドラゴンがどう対応するのかは分からないが、目の前のドンドリウスからは何かをどうにかしようという意志が感じられない。


「……そのデモンと呼んでいるモノについては把握している。確かにアレは危険だ。大地と繋がっている私にも、すでに影響は出始めている」

「アンタがおかしかったのはそのせいだって言いたいわけ?」

「おかしいかどうかは私は知覚していない。私は変わらず理性的なつもりだ」


 オルフェにドンドリウスが答えると、オルフェは「くだらな……」と吐き捨てる。


「君たちに関係のない話ではないぞ。この世界に僅かに残留したゼルベクトの力が、再び集まろうとしている。世界の歪みに乗じて、何らかの形で復活しようとしているのだ。私がその『先』が何処であると考えたか……分かるだろう?」


 つまりキコリだと言いたいのだろうが……そうなればキコリとしても当然の疑問が湧いてくる。


「復活って。ゼルベクトは何なんだ? そんなことが出来るのは神様くらいのものだろう」

「その通りだ」


 キコリの半分冗談じみた言葉に、ドンドリウスは大きく頷く。


「破壊神ゼルベクト。それが大地の記憶に刻まれた『主犯』の名だ」

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