アンタって、すごいちょろいわよね

「……なるほど。話してみたいこと、ですか」

「何を話すかについては教えられないぞ」


 キコリがそう言えばパナシアは「構いませんよ」と微笑む。無論、それが本音かどうかは分からないが。


「私の評価でいえばアサトは『謎の多い危険な男』です。しかし、キコリさん。貴方もまた同じくらい……いえ、それ以上に謎が多い」


 そう、パナシアからしてみればキコリは相当謎が多い。妖精であるオルフェを仲間に出来たのもそうだが、信じられないほどの実力を短期間でつけている。

 そして、こうして久しぶりに会ってみると……怖気のするほどの実力が透けて見える。

 更に言えば、ここ最近の足取りはまったく掴めていない。汚染地域……今ではダンジョンと呼ばれる場所にいたことは分かっているが、パナシアの把握しているものとは違うデザインの武具を纏っているのも驚きだ。一体何処で手に入れたものか気になるが、教えてはくれないだろうという予感もあった。


(……何よりも、この人。しばらく会わない間に随分と感じが変わりましたね。パッと見は変わっていないように見えますが、なんというか……そう見えるだけの別人だ。一体何があったらここまで変わるのやら)


 甘いというか抜けているというか、そういう部分がスッポリ抜けたかのようだ。冒険者稼業などやっていると多かれ少なかれそうなっていくものではあるが、それは大抵性格の変化と共に起こるものだ。

 キコリのそれがそういうのと同じなのかどうかは、パナシアには判断できない。

 判断できないが……敵に回さない方がいいというのは、直感で理解していた。

 もしも此処で余計なことをすれば、次からキコリの対応がどうなるか。大抵の場合はロクなことにならないし、そういうパターンであるとパナシアは考えていた。


「……俺は」

「いいえ。仰らずとも結構。色々とあったのでしょうし、その中で彼のことを探さなければならない事情も出来たのでしょう」


 そんな理解者ぶったことを言ってみれば、キコリの表情が申し訳なさそうなものに変わっていく。それを見てパナシアは「勝った」と思うが、表情には出さない。


「ありがとう。色々と話せないことも多いけど、それは悪いと思ってる」

「いいえ。私と貴方は売り手と買い手。今のところ、それ以上ではありませんから話せないことがあるのは当然でしょう」


 そう言うと、パナシアはキコリの横を通り抜けその場を去るべく歩き出す。


「何か売りたい話や買いたい話があれば、是非。適切な取引をさせていただきますよ」


 去っていくパナシアに手を振り、キコリは「初対面では怪しいと思ってたけど良い人だな」とキコリは微笑んで。


「……アンタって、凄いちょろいわよね」

「え? なんでだ?」


 オルフェに呆れたように深いため息をつかれるのだった。

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