こういうのは熱い鉄と同じだ

 そうしてダンとゼンに案内されて辿り着いたのは、永遠に続くかのように長い壁と、英雄門。そして、その先にある街。

 そう……ニールゲンやイルヘイル同様の、防衛都市の姿だった。


「さあ、あれが儂らドワーフの国……『アダン王国』の防衛都市ムスペリムだ!」

「さあさあ、行こうじゃないか!」


 誘われるままに歩いて行けば、英雄門の前のドワーフの衛兵がキコリとオルフェを見咎めて槍を構えようとする。


「待て! そこで止まれ!」

「まあまあ、落ち着け! こっちの連中は悪い奴等じゃないぞ!」

「たぶんな!」

「ダンにゼンか……変な連中を拾ってくるんじゃない。しかも『たぶん』だと?」


 衛兵の言っていることが物凄く正しいのでキコリとしては自分のことながら何も言えないのだが……だからといって本当に何も言わないわけにはいかない。


「冒険者だ。こっちの妖精も危ない相手じゃない。通してくれないか?」

「む……」


 キコリの示した銀級冒険者の証を見て、衛兵は少しだけ考えるような様子を見せた後「名前は」と聞いてくる。


「キコリだ」

「そうか。キコリ、その妖精が何かすれば責任はお前に問われることになる。それでいいなら此処を通ることを許可しよう」

「相手から仕掛けてきた場合は?」

「証人を確保しろ。余所者で普人で、しかもモンスターを連れている。信用度が著しく低いことを理解しろ」

「分かった」


 誠実だ、とキコリは思う。気に入らないことを隠そうとしないのはよくないが、その上でキコリにきちんと忠告している。職務に忠実であることが理解できる。

 できるが……その上でキコリはすっと目を細める。


(……イルヘイルと同じだな。となると、此処での対処法も同じだ)


 証人の確保など、ゼロからではほぼ無理だろう。イルヘイルと同じ目にあうことは目に見えている。

 となればキコリに出来ることは、自分たちに多少でも好意的な人物を見つけ出し確保すること。

 今回でいえばダンとゼン。この2人から離れてはいけない。

 キコリはそう感じたし、オルフェもダンとゼンをじっと見ていた。

 だからこそ、英雄門を通って中に入ると、キコリはダンとゼンに「ありがとう」と声をかける。


「俺たちだけじゃ入れなかったかもしれない。ありがとう」

「なに、構わんさ」

「だが礼をすぐに言おうとする、その姿勢はいいぞ」

「確かにそうだ。こういうのは熱い鉄と同じだ。すぐにやらなきゃならんことだ」

「うむ。キコリ、お前は見込みがある」


 ダンとゼンからも中々高評価のようだが……なんとなく、キコリはこの2人のことが少しだけ分かってきたような気がしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る