オルフェの怒り
その光景を、オルフェは見ていた。巨人の如き影が、キコリと突然現れたシャルシャーンに覆いかぶさったことを。
そして同時に悟っていた。アレは、生き物ではない。巨大な魔力……魔力生命体? 違う。アレは何かしらの濃厚すぎる魔力の塊、そのものだ。
そんなものがどうしてキコリに。いや、シャルシャーンが何かしら関わっていたということは、あれは。
「キコリ……!」
近づくことは出来ない。アレはあまりにも濃すぎる魔力だ。オルフェであろうとも、あんなものに触れたら正気を保てるかどうか分からない。
それに、アレは。恐らくはドンドリウスの言う「ゼルベクトの力」なのだろう。たとえ元々のゼルベクトから飛び散った力の破片であろうと、それがあれだけの力を持っている。
そんなものが、キコリを追ってきた。その理由は分かる。キコリがゼルベクトの生まれ変わりであり、破壊神の力を僅かながら使うようになったからだ。
更にはあの次元城……それが問題でもあったのだろう。そしてキコリの言っていた人造ゼルベクト。そんなものが居たからこそ、ゼルベクトの力の破片はその動きを活性化させたのだろう。
だが、来てみれば次元城も人造ゼルベクトもいない。だからこそ、対象がキコリになった。
けれど、けれども。キコリにそんな大量の魔力を受け入れられる器などない。
キコリの運用する魔力は現在、レルヴァという「外付け」と世界の魔力という、ほとんどが外部からの運用だ。
どうしようもなく才能がないからこそ、ドラゴンになってもそこまでにしかならなかった。
だというのに、その大量の魔力がほぼ一瞬でキコリに注ぎ込まれていった。
瞬間。キコリの翼が、一瞬で数倍、数十倍の大きさまで肥大化していく。
その巨大すぎる翼は一瞬で光になって弾け飛んで。落下するキコリをシャルシャーンが受け止め降りてくる。
「ちょっと! どういうことなのよ!?」
「どうもこうもない。ゼルベクトの力の破片が彼に入り込んだ。そういうことさ」
ぐったりとしていて意識のないキコリにオルフェは触れて。瞬間的にぶわっと冷や汗を流す。
生命体として形を保っているのが不思議なほどの魔力がキコリの中を暴れ回っている。
こんなもの……今にも爆発してもおかしくないのに、不思議とその様子がない。
まるで爆発できるだけのエネルギーを蓄えながら沈黙する火山のようだ。
何故、こんなことに。オルフェの怒りは自然とシャルシャーンへと向けられていた。
「あの次元城。存在を知らなかったとは言わせないわよ」
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