俺様は詳しいんだ

 此処で必ず殺す。そんな、たった1つの思考でキコリは斧を振り下ろす。

 けれど、岩ヤドカリもなんとか振り下ろそうと大きく暴れ、キコリはぐらりとバランスを崩し転がり落ちそうになる。

 だが、それでも落ちない。とっさの判断で斧を手放し、岩の出っ張りに手をかけしがみつき、止まったタイミングで再びよじ登る。

 その手には新しい斧がすでに現れていて、再びキコリは斧を振り下ろす。

 悲鳴に近くなってきた声をあげる岩ヤドカリに振り落とされないまま、キコリはただ作業のように、けれど作業と呼ぶにはあまりにも激しく、薪を割るかのようなフォームで斧を振り下ろし続ける。

 そして……割れて崩れていった岩のその向こうに、ついにキコリは岩ヤドカリの本体を見つけ出す。


「……見つけたぞ」


 凶悪に笑いながらキコリは穴を広げ、そのまま落下する。

 そして、再びガヅンと激しい音をたてて斧を振り下ろし岩ヤドカリの外殻を叩き割る。

 やはり、とキコリは思う。

 やはり、外殻は岩の殻ほどは硬くはない。

 ならばこのまま、叩き割り殺す。

 響く破砕音の果てに岩ヤドカリがぐったりと動かなくなった後……キコリが開けた穴から這い出てくる。


「ふうー……」


 その手にあるのは大きな魔石。それを取り出した以上、万が一にも生きているということはない。


「中々大変だったけど……意外とやれるもんだな」

「普段とは別の意味で心配になったわよ」

「ドドにはちょっと真似できそうにないが……いや、だが真似を出来ればかなり役に立つ、か?」

「お前おかしいぞ」


 アイアースが1人辛辣な感想を言うが、ひとまずキコリは聞き流す。


「聞いてんのかオイ。お前おかしいぞ」

「まあこうなるか……」

「あ?」

「なんでもない」


 にじり寄るアイアースから離れながらキコリは仕方なく頷く。

 

「そう言われてもな。アレが一番早いだろ」

「そうかもな。それを加味してもお前おかしいけどな」


 言いながら、アイアースはキコリをじっと見る。それはキコリを見定めるような、とても真摯なもので……キコリもまた、その視線を真っすぐ見つめ返す。しばらくそうして見つめ合った後、アイアースは「お前は」と呟く。


「たぶん、どっかが壊れてるんだな。死ぬことへの恐怖は生き物なら皆あるはずで、お前もそれを知ってるはずなんだ。けどお前からは自分の命への執着を感じねえ……バーサーカー、だっけか? たぶんそうやってるうちに壊れたんだろうよ」

「俺は、ちゃんと死にたくないと思ってるよ」

「そうかあ? 死にたくねえってのはお前のやってんのとは真逆だぞ。俺様は詳しいんだ」

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