行ってくる
ルナイクリプス……すなわち月蝕。
月が空より消えるその現象を、獣人は月の魔力が地に降り注ぐからだと考えていた。
事実、獣人たちは月蝕の日、他の日の数倍以上に強くなる。
その現象を魔法という形で疑似的に再現したのがルナイクリプス。
月の魔力を対象に注ぎ込み、身体能力を引き上げる魔法だ。
ただしコレは本物の「月蝕」現象と同じで、ある無視できないリスクをもつ。
「月の魔力を取り込めば、精神が高揚し好戦的になる……いわゆるバーサーク現象が起こる。でも」
「ああ、問題ない。俺はバーサーカーだ」
「うん、だからこそ僕は君にこれをかけられる。そして、もう1つ。君にこの言葉も贈るよ」
「言葉?」
「……理性の反対は、野生だ。感情なんてものは理性が生み出したものだと……僕達はそう教わる」
クーンの杖に集まる魔力の輝きが、強くなっていく。
「生きるか死ぬか。その2択のみに集約された、冷徹なる原始の論理。理性をすっ飛ばしてバーサークしたその先には、野生がある」
「……なるほど。分かる気がする」
「君がバーサーカーなら、そこに辿り着くはず……幸運を祈るよ。ルナイクリプス!」
キコリの中に、異質な魔力が流れ込む。
それは身体の隅々まで伝わっていき……そして、キコリの中で何かが高まっていくのを感じていた。
「それと、僕の残りの魔力も持って行って」
クーンが触れた場所から、キコリの鎧の魔石に魔力が充填され僅かに輝きだす。
それは、フル充填というわけではないけれど……充分すぎた。
「ありがとう、クーン……行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
クーンの声を背に、キコリは走り出す。
とても、とても爽快な気分だった。
今まで見えなかった景色が、見える気がする。
それは月の魔力がもたらす高揚感故の勘違いか、あるいは本当に見えているのか。
その答えをキコリ自身出さないままに……森の中を、全力で駆け抜けて、森から平原へと、思いきり飛び出す。
そんなことは、どうでもよかった。
英雄門の前で始まっている戦いに、キコリは身を躍らせる。
「ハ、ハハハッハ!」
そこにはキコリへと振り向くゴブリンジェネラルの巨体がある。
気付かれた。知るものか。
元より初手は決まっている。
籠めろ、殺意を籠めろ。これ以上ないくらいに殺意を装填しろ。
お前を殺すと、世界に宣言しろ。
そう、これが開戦の銅鑼。叩け、響け、その魂を震わせろ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
響く。
キコリのウォークライが響き渡る。
心を、更にバーサークさせて。
キコリは斧を、そしてマジックアクスを構えてゴブリンジェネラルに凄惨な笑みを向ける。
「チャージ! ミョルッ……ニルウウウウウ!」
鎧に充填された魔力の一部がキコリに流れ込んで。
バーサークを深化させながら、キコリは稲妻を放つ斧を振りかぶり投擲した。
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