死体を操る魔法
聞こえてきた声に、キコリとオルフェは同時に振り返る。
先程入らないことを決めたばかりの洞窟の奥から、一体のオークが姿を現していたのだ。
確かな知性を感じさせるその目は、キコリたちをじっと見つめていた。
「共通語を……?」
「うっそでしょ。オークって独自言語のはずだけど」
「然程難しい話でもない。以前、怪我した人間を助けたこともあった」
オルフェがキコリへ振り向くが、キコリは「知らない」と首を横に振る。
キコリのような例外でもなければ「モンスターは人間の絶対的な敵」が共通認識だと教わっている。
仲良くしようとした者は例外なく死んでいるとも。
「えーと……人間、を?」
「ドド達は他の連中に然程興味がない。人間とゴブリンは同じくらい厄介だが、コソ泥に入らない分人間の方が僅かにマシだ。礼儀も知っている」
「そ、そうなのか……」
「だが、他のオークとドド達を一緒にされるのは困る。普通のオークは人間を見つけたら殺す」
ひとまず、目の前のオークがキコリたちの敵ではなく、変わり者である……というのは確かなようだ。
「それで、人間に似た『何か』と妖精。先程のネクロマンサーの話を聞かせろ」
「何かって……」
「人間ではないだろう? 明らかに違うと分かる」
「まあ、違うけど。俺はキコリ、こっちはオルフェだ」
「そうか。ドドはドドだ。で、ネクロマンサーの話を聞かせろ」
「まずは聞かせてくれ。此処で何が起こったんだ? それが分からないと断定も出来ないだろう」
キコリの言葉にドドは少しムッとした表情を見せるが「それもそうか」と頷く。
「襲撃だ。ドドが採掘から戻った時にはもう全てが終わっていた。怪しげなローブを纏った『何か』がドドの仲間達を動く死体に変え、去っていくところだった」
「止めなかったの?」
「あまりにも理解できず、恐ろしかった。だが冷静になるとアレは魔法だったのだろう。先程言っていた死体を操る魔法……それをかけたに違いない」
その話を聞いてキコリは考える。
死体を操る魔法。それがどのようなものかはキコリには分からないが、まあ言葉通りに自分の意志通りに動かすのだろう。だとすると、ネクロマンサーを倒せば操ったモノも動かなくなる可能性は高い。
(村1つ分の数を操るなら、たぶん魔力も高い。真正面から叩き割るのが一番良い勝ち筋、か……?)
この場所に満ちているという高濃度の魔力のこともある。
ネクロマンサーがその原因であるのなら、オークの村の件も含めて叩き潰しておいた方が良い相手なのは確かだ。
「まあ、ネクロマンサーでしょうね。見た目は千差万別だから分からないけど、ローブを着てるなら人型の奴でしょうし」
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