スタンプボア
「とにかく、相手はこっちの行動をかなり正確に予想できる。そういうことで良さそうだな」
「そうなるわね」
「だが予想できるわりには私の剣で刺されたがな!」
「まあな」
そう、たぶん常に「未来予想」が出来ているわけではないのだろうとキコリは思う。
恐らくは発動にそれなりの時間がかかる魔法……となれば、あまり時間を与えたくはない。
ないが……どうしたものか? このまま相手を追うことは、その術中ではないだろうか?
「ブガガガガガガ!」
キコリたちの向かう先から大型のイノシシのようなモンスターが走ってくる。
スタンプボア。モンスターかデモンかは区別などつかないが……敵意を持っているのは確実だ。
こちらに凶悪な形に曲がった槍のような牙を向けながら突進してくるその姿は、こちらを完全に引き潰す態勢だが……そこでキコリは思いついたように「ああ」と声をあげる。
「決めた。アレに乗ろう」
「は? 本気で?」
「ああ、本気だ。ちょっと無茶すれば止められ……」
キコリを押しのけ、ドドが前に出て中腰になる。
「任せろ」
ドドは爆走してくるスタンプボアの角を両手で掴み、思いきり足に力を籠める。
「フ、ン……!」
「ブギィ……!?」
僅かに後退ることもなくスタンプボアを止めたドドは、そのままスタンプボアを睨みつけ……ガクガク震えたスタンプボアは、その場に座り込んでしまう。ドドが手を放しても、逃げることすらしない。
「出来たぞ」
「凄いな、ドド……」
「無茶などせずとも、力仕事はドドに任せろ。今のドドは強いぞ」
オークそのものの上位種であるハイオークとなった今のドドは、人間レベルに自分を制限しているキコリよりも力という面では上だ。総合力はともかく、ドドは間違いなくキコリの隣に立てる力を手に入れたのだ。
キコリもそれを感じて、ドドの背を軽く叩く。
「頼りにしてるよ、ドド」
「ああ」
「しかし……鎧、ボロボロだな」
「ああ。寸法も合わなくなってきている……何処かで直さねばならんが」
少なくとも今はその暇はない。最悪廃棄も考えなければならないだろう。
命を救ってくれた鎧であるだけにドドとしても不本意ではあるのだが。
「よし、じゃあ乗るか」
体格の問題でキコリが先頭に乗るが、スタンプボアは暴れたりはしない。
手綱も鞍もありはしないが、キコリとドドを載せてスタンプボアは立ち上がり、そのまま元来た方向に向けて走り出す。
それはキコリたちが歩いて進むよりは、ずっと速い速度で。早々にキコリの前に座っていたオルフェはともかく、フェイムは吹き飛ばされそうになってドドにキャッチされていた。
「気をつけろ」
「た、助かった。えーと……モモ!」
「ドドだ。覚えろ」
「うむ、覚えた! だからギュッと握らないでもらえると助かる!」
「何やってんだか……」
オルフェの溜息も流れていくような速度で、キコリたちを載せたスタンプボアは平原を走る。
それはずっと徒歩だったこの旅では初めての、快適な時間でもあった。
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