もう1人仲間を入れるとしたら

 廃砦を潜り抜けると、そこはまた森だ。

 この広大な森は何処まで続くのかと、キコリはそんなことを考えてしまう。


「なあ、クーン」

「ん?」

「この先って、何があるか知ってるか?」

「うーん……聞いた話であれば、森はもうすぐ終わりかな。そしたらゴブリンの勢力圏も終わるはずだよ」

「ジェネラルが最強って事か」

「此処の範囲ではね」


 つまり、もっと先にはもっと強力なゴブリンがいるのだろう。

 それを悟りつつも、キコリは歩く。

 この前の影響がまだ戻り切っていないのか、この広い森の中に分散してしまったのか。

 冒険者の道の範囲内のゴブリンは驚くほど少ない。

 そしてキコリたちがもうゴブリン狩りでは顰蹙を買うというのであれば……この先に行くしか、ない。

 歩いて、歩いて森を抜けて。

 その先に広がる光景に、キコリは絶句した。


「な、んだコレ……」

「僕も見るのは初めてだよ。正直、ビビるね」


 巨大な山脈と、その真ん中……ちょうど「冒険者の道」にあたる部分に掘られた道。

 周囲にある破壊された小屋の群れは、先程のゴブリンのものとは違う、ある程度の文明じみたものを感じる。


「冒険者の坑道……これを掘るためにかなり激しい戦いがあったって話だよ」

「此処を登るわけにはいかなかったのか?」

「それをやって相当死んだらしい。この山の上はとんでもない化け物どもの巣窟……だからこそコレを掘って、その結果向こう側にいたオークと戦う結果になったんだってさ」

「……」


 キコリは山脈を見上げる。

 この山の上に何がいるのかは分からないが、諦めざるを得ない程に凶悪なモノがいたのだろう。

 だからこそ逃げざるを得なかった。

 こんな場所に仮拠点を作り、大規模な坑道を作る方がマシだと思わせたのだろう。

 ゾクリとする。

 そんなものが、ゴブリンの領域のすぐ先に……防衛都市から半日もかからない場所にいるのだ。

 それは、すぐそこに破滅があるのと同じ意味でしかない。


「怖い、な」

「うん、怖いよ。人類はいつでも滅亡の瀬戸際にいるんだ」


 命をかけたくらいでは到底届かない場所。

 そこから人類は視線を逸らし、先へ進んでいる。

 今のところ、そういうことはないようだが……もし、あの山にいる連中の気が変わったら、防衛都市は文字通りに滅ぼされるのだろう。


「……戻ろう。この先に進むと、今日中に帰れなくなる」

「僕も賛成。今日のところは準備が足りなさすぎる」


 キコリとクーンは頷きあうと、身を翻して。


「なあ、クーン」

「ん?」

「もう1人仲間を入れるとしたら、どんな人がいいだろうな?」

「うーん。考え纏めとくから、明日でいいかな」

「そりゃ勿論」


 そんな会話を交わしながら、2人は防衛都市へと帰還した。

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