キコリらしくはない

 ドラゴンは、人なんて食わない。そんな面倒なことはしない。

 何故なら、そんな必要は何処にもないからだ。

 ドラゴンは環境に適応する生き物だからこそ、何かを「食べる」必要など本来ない。

 キコリが今食事をとっているのは「そういう環境に適応」しているからであり……例えばの話、食べるのをやめたとしたらキコリの身体はそういう風に適応するだろう。それがドラゴンという生き物だ。

 オルフェのような妖精が必ずしも食物を必要とせず、しかし嗜好品として食べる事もあるように……モンスターの中には、時折そういう生物が存在する。

 ドラゴンはそれを自分で調節可能ということだが……食べるとして、人間など要らない。

 わざわざ必要ではない食事をするというのに、美味くもない人間を襲ってボリボリ食う必要が何処にあるというのか。

 そんな趣味があるなら別だが、大抵は「もっと美味いもの」を食べに行く。


「半端なんだよ、お前。まるで『人間の想像したドラゴン』みたいだぞ」

「ガ、ア……ッ」


 大巨人は大きく震え……その姿を崩すと、別の何かに組み替える。

 それはまるで、ヴォルカニオンのような……「ドラゴンらしいドラゴン」の姿。


「俺は……ドラゴンだっ! 貴様のような、貴様のようなモノに何が分かる!」


 大巨人……いや、大土竜の開いた口に、魔力の光が蓄積されていく。


「キ、キコリ! どうすんのよアレ!」

「大丈夫。すぐに消し飛ばすさ」

「は?」


 キコリが何かをしようとして。その頭に、オルフェが思いっきり跳び蹴りを喰らわせる。


「いだっ!?」

「バカなのアンタ! 次やったら許さんって言ったでしょ!?」


 ドラゴンブレス。それを使おうとしていると悟ったオルフェは必死で止めて。

 しかし、キコリは何故怒られたのか分からないとでも言いたげだ。


「いや、オルフェ。この状況」

「アンタが挑発したんでしょうが! アレ以外でどうにかなさい!」

「どうにかって……!」

「げっ、ヤバ! 逃げるわよ!」

「あっ! うおおおおおお!」


 キコリはオルフェを掴み、大地を薙ぐ破壊光線をギリギリのところで避けていく。

 大地を砕き、巻き上げ、破砕するソレは……まさに破壊そのものだろう。


「今やれば確実に仕留められたぞ!?」

「うっさい! アンタ今、『らしく』ないわよ!?」

「ハハハハハ! 逃げるしか出来ないのか! いいぞ、逃げ惑え!」


 再び大土竜の口の中に現れる光を見ながら、キコリとオルフェは言い争う。


「俺らしいってなんだよ!?」

「上から目線やめろ! それはドラゴンらしいんであってキコリらしくはないのよ!」

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