俺達は
キコリらしくない。その言葉は、思ったよりもキコリを抉った。
前の名前を捨てて、キコリになって。
ドラゴンになったら、キコリを捨てるのだろうか。
今やっているのは、そういうことなのだろうか?
その葛藤は一瞬で。破壊光線を回避しながら、キコリは叫ぶ。
「そんなに俺らしくなかったか!?」
「ドラゴンらしくはあったかしらね!」
「そうか! それはなんていうか……間違ってたな!」
この手にあるものは全て「キコリ」として手に入れたものだ。
今更「キコリ」を捨てて別の何かになるなんていうのは、間違っている。
誰かに愛された「キコリ」を捨てる気は、キコリにはないからこそ。
「じゃあ……俺らしくやろうか!」
斧を、その手に握る。キコリがキコリである始まりの武器。
それはもう、普通の「斧」ではないけれども。
これこそが、キコリの原点であるならば。
「何を……ゴチャゴチャとォ!」
大砂竜の口の中に、再び魔力が溜まっていく。
アレをあと何発撃てるのか。
知らない。
どうでもいい。
今、キコリが意識すべきことは。
今、キコリが頭の中に満たすべきことは。
あいつを殺す、という強い意思。
絶対に殺してやるという、溢れんばかりの殺意。
空気を吸え、意思を籠めろ、声をあげろ。
それはウォークライ。戦いの咆哮。
されど、それに魔力を籠めたなら。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
叫ぶ。吼える。それこそは竜の咆哮。
ドラゴンロア。ウォークライの発展形であり、進化系。
殺意を魔力に載せて、キコリは叫ぶ。
「ヒッ……」
瞬間、魔力を口の中に溜めたまま……大土竜は静止した。
そしてそれは、これ以上ないくらいに大きな隙だった。
「ミョルニル」
キコリの斧を、電撃が覆う。1本、投擲して……それは凄まじい速度で大土竜の顎を無理矢理閉じさせる。
鳴り響くのはドゴンッという暴発の音。大地を砕く破壊光線のエネルギーは、大土竜の頭部を吹き飛ばす。
頭を失った大土竜は、そのままザラリと崩れて……オルフェが歓声をあげる。
「何よ、やれば出来るじゃないの!」
戻ってきた斧をキャッチしたキコリの耳元でそう叫ぶが……キコリは、大量の土塊を厳しい表情で睨んでいた。
「終わりじゃない」
「え? でも……」
土塊が、盛り上がる。小さな人型が、無数に出来上がって。
「グングニル!」
キコリのグングニルが人型を吹き飛ば……さない。
それらは剣持つ全身鎧の姿に変わっている。魔法を弾き飛ばす、高性能な鎧のソレにだ。
「ああ……認めよう」
「俺は、ドラゴンではない」
「俺は」
「俺は」
「俺達は」
輪唱するように、それらは喋り出す。
「ドラゴンを目指し造られた失敗作」
「捨てられ彷徨ったドラゴンもどき」
「創土のドンドリウスに従属するもの」
「俺達はソイルレギオン」
「この全ては俺達の集合体であり」
「俺達の集合体こそが俺だ」
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