どういう結果をもたらしたか

 戦うか、逃げるか。その選択は、数秒もかからないうちに済んでいた。


「逃げるぞ!」


 その合図と共にドドとオルフェが動き出し、岩ヤドカリのハサミを叩き割りながらキコリも走り出す。

 ではアイアースは? その答えは簡単で、キコリが「逃げる」と言った瞬間に逃亡していた。

 しかも物凄く速い。とんでもない逃亡速度である。

 そうするつもりであったからキコリが最後であるのは問題ないが、アイアースが真っ先に逃げたのはキコリは思わずギョッとしながらも仲間たちの後を追いかける。

 ハサミを損傷した岩ヤドカリは勿論、岩山ヤドカリも追うのが面倒なのか再び岩山に戻っていくが……岩山ヤドカリが動いたことで他の岩ヤドカリたちも刺激されたのだろうか。周囲の岩が一斉に動き出し、無数の岩ヤドカリたちがその姿を現す。

 それは波紋のように広がっていき、今まで見えていた岩や岩山の全てが岩ヤドカリや岩山ヤドカリであったという事実が判明すれば、キコリたちの口からは乾いた笑い声が出てきてしまう。

 つまるところ、此処は岩ヤドカリたちの群生地だったのだ。分かってみればこんなにゾッとすることも中々ないだろう。

 岩山ヤドカリと戦う選択をしていれば、アレが全部襲い掛かってきていたかもしれないのだから。


「そうかもとは思ったけど……! 本当に全部かよ!」

「とんでもない場所ね、此処で野宿してたら喰われてたんじゃないの!?」

「笑えない冗談だ!」


 追いついたキコリの横を飛ぶオルフェが「確かに全然笑えないわ!」と返すが……そんな2人とドドの視線がちらりと向けられる先は、先頭を走るアイアースだ。

 何の迷いもなく先頭を走って逃げるアイアースだが、襲ってくる岩ヤドカリのハサミを三叉の槍で弾きながら逃げている。

 その隙を突いてキコリたちも逃げているが「もしかするとああする為に先行したのか?」という気持ちすらわいてくる。

 なんだかんだ言っても話も通じるし、誰かから聞いたイメージなど当てにならないな……とキコリはそう思いながら走り、ついに転移門の前まで辿り着く。

 元々足が遅いのだろう、追いかけてくる岩ヤドカリの数は少ないが……待っていたアイアースにキコリは「ありがとう」と素直に礼を言う。


「あ? 何がだよ」

「道を拓いてくれただろ?」

「はあ? ん、あー……ああ! そうだな。感謝しろよ」

「……もしかしてそういうアレじゃなかったか?」

「どういうつもりかじゃなくてよぉ。どういう結果をもたらしたか、だろ?」


 全部偶然の結果だったのか、それともひねくれ者で悪ぶりたいだけなのか。

 キコリとしてはイマイチ判断はつかないが「まあ、そうだな」と頷き転移門を潜る。

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