相当な偶然的確率

 その潜った先は……どうやら、何処かの建物の中であるようだった。

 天井は高く、石造りの床と壁、そしてシャンデリアの吊り下がった天井も石だ。

 シャンデリアのろうそくには火が灯っているが、一体何処の誰が管理しているというのだろうか?

 窓のない室内は広く、階段や扉のようなものも見える。

 しかしながら、どう見てもマトモな建物ではないと。キコリには、そう思えていた。


「お? なんだ此処」


 キコリに大分遅れてアイアースがやってきたが、周囲を見て面白そうに「へえ」と声をあげていた。

 だが……オルフェたちが来ない。その事実にキコリは違和感を抱き「アイアース」と声をかける。


「なんだよ」

「オルフェとドドが来ない。ちょっと向こうに戻ってくる」

「おう、好きにしな」


 キコリは転移門を潜り岩ヤドカリの巣に戻るが、そこにはオルフェとドドの姿はない。

 周囲を見回してもそれは変わらないし、2人の性格上この辺りをウロウロしているはずもない。

 だからこそキコリは再度転移門を潜り、アイアースに視線を向け問いかける。


「居なかった。アイアース、何か知らないか?」

「何か、ねえ……」


 如何にも何か知っている風のその態度にキコリが再度「アイアース」と言えば、アイアースは肩をすくめてみせる。


「俺様は何も知らん。だがそのお前らが『転移門』とかって呼んでるソレだがな。決して親切なだけの代物じゃあないと思うがな」

「……どういう意味だ?」

「どうもこうも。来るべき奴が来ないなら、それはどっかに飛ばされてるってことだろうよ」

「なっ……!」


 慌てたように戻ろうとするキコリを、アイアースが腕を掴んで引き留める。


「おい! 離せ!」

「落ち着けよ。どっかって言ったって、此処のエリアの何処かだろうよ。お前が100回試し直して辿り着くならいいが、下手すると俺様とも離れ離れだぞ?」

「……それ、は」

「俺様とまた会えたことだって相当な偶然的確率だろうよ。此処に何が出るかも知らんのに、いいのか?」


 アイアースの言っていることは、あまりにも「もっとも」であった。

 潜る度に違う場所に転移するというのであれば、転移門の「やり直し」でオルフェやドドと会える確率がどの程度のものか?

 それでもこのエリアの何処かにいるというのであれば、アイアースと協力して進んだ方がいいのも確かだ。

 1人で無駄に時間を消費するよりもかなり効率的であるはずだ。

 ……まあ「アイアースが協力してくれる」という前提の上での話ではあるのだが。

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