己のエゴを通すしか出来ない生き物

 そして、クーンと入れ替わりで入ってきたアリアは……近くまで寄ってくると、ちょっと怒った顔でキコリをじっと見ていた。

 その無言の圧に我慢できず……キコリは恐る恐る、といった調子で問いかける。


「えっと……その。何か、怒ってます?」

「めっちゃ怒ってます。理由分かりますか?」

「倒れたから……ですかね?」

「無茶したからです。キコリが無茶する必要が、何処にあったんですか」


 アリアの為だとは、とても言えない。

 後々考えてみれば、キコリが手を出さずともどうにか出来たのかもしれないし……確かな勝算があって挑んだわけでもない。

 文字通り、命をかけた無茶だった。それは、結果として勝利していようと言い訳のしようもない。


「その、すみません」


 だから、キコリは言い訳せずにそう謝って。

 アリアは、キコリのそんな顔をじっと見つめてくる。


「理由は」

「えっ」

「当然、無茶するに至った理由があるんですよね?」


 まさかないとは言いませんよね、と圧をかけてくるアリアからキコリは思わず視線を逸らしてしまう。

 だって、言えるはずがない。

 貴方の為です……とか、そんな押しつけがましい。

 無茶した理由を誰かの為だとか口にするなんて、そんな無責任ではないつもりだった。


「キーコーリー?」

「その、ごめんなさい。二度としないとは言えませんけど、反省はしてます……」


 キコリは、あくまで自分の為に……アリアを守りたいという自分の我儘を通す為に命をかけたのだ。

 そんなものは、知られなくていい。

 貴方の為に命をかけます、なんて言うのは……重すぎて迷惑極まりない。

 少なくともキコリは、そう思っていた。


「それは反省してるとは言わないんですよ、もう!」

「うっ……本当に反省はしてるんです。でも、あの瞬間をやり直すとしても、また俺はやります」

「なんですか、その頑固。むーん?」


 アリアは悩むような様子を見せながらも、何かを思いついたようにキコリをギュッと抱きしめる。


「うわ!? ア、アリアさん!?」

「分かりましたよ。私の為ですね!?」

「へ!?」

「ははーん、その反応で確定です! どぉせコレは俺の我儘だ的なしゃらくさい事考えてたんでしょう!」

「しゃ、しゃらくさいって……」

「そう言うのは貴方の為です、でいいんです! はい、どうぞ!」

「え、えーと……貴方の為です?」

「重い!」

「え、酷!?」


 アリアはキコリを抱きしめたまま笑うと、そのまま強めに抱き寄せる。


「でも許します。バーサーカーは己のエゴを通すしか出来ない生き物ですから」

「……」

「倒れる程バーサークしたなら、分かったでしょう? バーサーカーは、こうと決めたことを何が何でも成し遂げたいから突っ走る。その想いの強さこそが力です」


 アリアはそう言って、抱きしめたキコリを見下ろす。


「というわけでキコリの気持ちは分かったんで、これでカップル成立ということで?」

「いえ、それはその。俺としては今のところ家族愛の方が強くて……」

「なーんですかそれ。このヘタレ!」

「酷い!?」


 そうやってワイワイ騒ぎながらも、キコリとアリアは笑いあう。

 その声は遠く、空の向こうまで響いていく。

 世界を取り巻く状況も防衛都市の生活も、何1つ変わりはしないけど。

 それでも……手に入れたかった成果は、確かに此処にあったのだ。

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