それは何となく理解しました

 ゴブリンジェネラルの襲撃から、1週間後。

 キコリの胸元にかかっているペンダントは、赤鉄製のものに変わっていた。

 ゴブリンジェネラルの単体討伐という、確かな戦果を理由に1つランクアップしたのだ。

 まあ、ランクアップといったところで「他者から見た仕事っぷりの証明」のようなもので、特に何かあるわけではないらしいのだが……。

 しかし変化といえば、大きな変化は1つあった。


「……どうぞ。チャーハンです」

「ふむ」


 スプーンを構えたアリアが、キコリの置いた皿に乗ったチャーハンにスプーンを突き刺す。

 たっぷりと、ひと掬い。

 スパイスの香り漂うチャーハンを口に運ぶと、咀嚼して……やがて「んー、なるほど」と頷く。


「普通に美味しいです!」

「普通、ってつける必要ありました?」

「前世の味がどうのって言う割には普通でした」

「詳しく説明されるとヘコむなあ……!」

「まー、でもキコリの前世知識ですけど。ここ数日色々試してみましたけど、別に全力で使ってもどうってことなさそうですよ」

「それは何となく理解しました」


 そう、キコリはアリアに前世のことを話していた。

 悪魔憑きと呼ばれて流れてきたことも、全部だ。

 アリアは「そうでしたか」と優しく抱きしめてくれたが……実のところアリアは、というかこの世界の人間の一部は「前世」を持つ人間の存在を、知っていたらしい。

 そうした人間は有り得ない発想からとんでもない物を作ったり、あるいはろくでもない事を仕出かしたり……そうした様々な理由から「前世持ち」という存在については、あまり大々的には発表されていない。

 1度管理しようとして、やはりとんでもないことになったのが理由だ……とアリアはキコリに教えてくれた。

 そう、「前世持ち」は大抵がそういうことを成せる力を持っているというのが常識だ。

 その代償か、大抵は自滅したり短命に終わったりするらしいのだが……。


「それに比べるとキコリは普通っていいますか。どう足掻いても一般人っていいますか。たぶん前世持ちに憧れた前世持ちマニアの一般人って判断される可能性しかないと思いますよ」

「可能性が高い、とかですらないんですね……」

「私はキコリが文字も読めなかった事知ってますから、そういうのじゃないって分かりますけど。というか前世持ちって公言するのもあんまり良くないんですよね。知ってる人は知ってますから、色々変なのが寄ってきますよ」

「まあ、そうでしょうね……」


 前世持ちの転生者ということに関する重荷は降ろすことができた。

 しかし……結局のところ、それもあまり武器になりそうにないという事実は、キコリをちょっと落胆させてもいたのだった。

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