そうなる前に対処しなければならない
此処で逃げ切るのは、可能だろう。
しかしそうすれば恐らく巨大イエティは他のイエティを統率し、それに対する方策を考えだすだろう。
それはキコリだけではなくオルフェへの被害にも繋がるし……何より、これ以上苦戦するようになれば無茶をしなければ勝てなくなる。
そうなる前に対処しなければならないのは自明の理だった。
着地して、キコリは巨大イエティの方角へと振り向く。
すでにイエティたちは雪の中に潜っていて、余程の高火力でなければ吹き飛ばす事は出来ないだろう。グングニルで吹き飛ばしたところで、どうにか出来るか分からない。
だからこそ、キコリはその場に留まって。オルフェに上の方にいるように手だけで合図する。
斧を構え、無言。周囲の雪は微動だにせず、振動もない。
もし移動してこちらに向かってきているのだとしたら、随分と凄い能力だとキコリは思う。
(やっぱり、此処で仕留めなきゃダメだ。次は……ドラゴンブレスを使わないと勝てなくなる)
真正面からやれば勝てないと知っているから、不意打ちで挑んでくる。
こちらが飛ばないと思っているから、空中に放り投げる手法を選んだ。
なら、次は?
「!」
ズン、と。キコリの背後から生えた巨大な手がキコリを掴む。
そのまま雪の中に引きずり込もうとするのは……オルフェに援護させない為だろう。
オルフェの「ヒートウェーブ」という声が聞こえてくるので、別のイエティが牽制に氷玉を投げているのだろうことが分かる。
……雪の中はイエティの領域。このまま引きずり込まれれば、どうなるか分からない。
すでにキコリの身体は半分以上引き込まれて。
けれど、キコリはすでに「触れて」いる。
「ブレイク」
「ギアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
キコリを引きずり込んだ手が微塵に砕けて、雪の奥から悲鳴が聞こえてくる。そのまま、キコリは跳んで……輝く槍を、構える。
「グングニル!」
ドン、と。凄まじい音が響いてキコリの身体が吹き飛ばされる。その中でキコリは両手に斧を構え、魔力を思いきり込める。
「ミョルニル!」
爆発の余波の収まらぬ中に斧を2本とも投げ込み、電撃がそこにあった「何か」を蹂躙する。
フェアリーマントを発動したまま、キコリは穴の開いたその場所の近くに降り立って。
「……念のため、グングニル」
もう一発グングニルを撃ち込んで何の反応もないことを確認すると、上空のオルフェに視線を向ける。
他のイエティたちは逃げたようで姿形も見えないが、リーダーである巨大イエティは倒した。
ひとまずはこれで問題はないだろう。
「あ、魔石……」
「諦めなさいよ。穴の中潜るの?」
「……潜る」
転生ゴブリンの事件を忘れたわけではない。
フェアリーマントを起動しながら穴の中に潜ると、キコリはすでに雪に埋もれつつあった魔石を回収し、上へとジャンプで……戻れる高さではなかったので、雪の壁を蹴りながら三角跳びのような要領で地上へと戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます