静寂

 迷いながらもゴーストを倒し、転移門を潜り抜ければ……そこにあったのは、ある意味で幻想的な光景だった。

 地面は水で覆われ、水草のようなものが生えている場所もある。水深は浅くもないが、湖と呼ぶほど深くもない……湿地と呼ばれるようなものであることが分かる。

 だが何より特徴的なのは、そこに設置された無数の柱と、その上に建つ建物たちだろう。

 建物同士を橋で繋げることで1つの集落としているその姿は、確かな「文化」を感じさせるものだった。そして何より……条件としては、合っている。


「此処がトロールの本拠地、なのか?」


 頑丈な梯子らしきものも設置してあり、かなり考えて作ってあるようだ。少なくとも木材の加工技術に関してはそれなり以上のものを持っていることが理解できる。


「いや、違うわね。此処は何か別の奴の住処だわ」

「そうなのか?」

「ええ、そうよ。トロールは卑劣でクズだけど、それは住居もそうなのよ。こんな狙われやすいものなんて作るはずがないわ」


 一般的なトロールの住居は守りやすいように石で作られている。こんな木の住居など作るはずがない、とオルフェは確信した口調で言う。しかし、そうなると……此処ではなかった、ということなのだろうか? トロールはもっと別の場所から水を運んできて泥を作ったということなのだろうか?

 いや、そんなはずはないとキコリは思う。此処がトロールの住処ではないとしても、トロールは確かに此処から来たのだ。


「……トロール以外の誰かの住居、か……」

 

 見上げたキコリの視線の先。妖精のツリーハウスをも思わせる、けれどもっと立派な、拘りを感じる建物が見えている。

 誰が作ったのかは分からないが、立派な住居群だ。きっとこの場所に住む為に色々と考えた結果ああなったのだろう。

 見上げたそこにはただ静寂が広がるのみだ。そう、静寂が広がっている。


「……? ちょっと待て。静か過ぎる」

「む?」

「そういえばそうね」

「確かにそうだな。これだけ騒いでいて誰も顔を出さないとは」


 キコリに3人とも頷き、フェイムが自分の胸を叩いてみせる。


「よし、私に任せろ。様子を見てきてやろう」

「やめときなさいよ」

「うむ、無茶はしない方がいいとドドは思うぞ」

「何故だ⁉」


 何故も何も何か危険があればすぐ死にそうだからだが、キコリはそれは言わずに「俺が行くよ」とフェイムに笑いかける。

 ドドに任せてもいいのだが、何かあった時にフェアリーマントのあるキコリのほうが動きやすい。


「オルフェ。何かあったらフォロー頼む」

「ええ、任せなさい」

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