嫌な予感

 帰還したレルヴァたちから、キコリは状況を聞いていた。

 危険な機能の破壊は成功。されど、無力化する前に内部の防衛機能によって追い出されてしまった。

 それは残念ではあるが朗報でもあった。特に「ゼルベクトを呼ぶ機能」とやらは破壊出来て幸いだった。


「ゼルベクトを呼ぶ、か。自分が滅びた後を見据えていたってことか? 随分用意周到なんだな」

「そうね。気持ち悪いくらいの執念だわ」


 自分が倒れても別のゼルベクトがこの世界を破壊する。そういうことなのだろうが……本当に執念深い。しかし、その機能はすでに破壊された。ならばゼルベクトがもう呼ばれることはないだろうが……。


「待てよ。まさか……」

「どうしたのよ」

「以前、ドンドリウスが言ってたことを思い出したんだ」


 この世界に僅かに残留したゼルベクトの力が、再び集まろうとしている。世界の歪みに乗じて、何らかの形で復活しようとしているのだ。

 ドンドリウスは、そう言っていた。もしそれがキコリではなく、次元城の影響だったとしたら?

 そうだとしたら……何が起こる? 次元城がゼルベクトの力を呼んで。そこから、何が起こるというのだろうか?


「……嫌な予感がする。指名手配がどうとか、言ってる場合じゃないかもしれない。今すぐ次元城を」


 壊さないといけないかもしれない。キコリがそう言う前に、外から歓声が上がる。

 思わずキコリが窓を開け顔を出すと……次元城が上昇し移動を開始していた。


「チッ、移動された! これじゃ転移が上手くいかない……!」


 だが、強硬手段に移すのであれば転移できなくてもいい。キコリはそう考えるが……オルフェが「キコリ!」と叫び一瞬で人間サイズに巨大化しキコリを部屋の中ほどへと引っ張り込む。


「オ、オルフェ!?」

「間に合え……!」


 オルフェの展開した結界がキコリたちを包んだ直後。次元城から放たれた波動が、王都ガダントへと広がっていく。オルフェの結界をビリビリと揺らすそれが過ぎ去った後。王都ガダントからは……一切の喧騒が消えていた。

 

「これは……まさか!」


 キコリとオルフェは慌てたように宿の1階へと降りるが、カウンターにいたはずの宿の主人の姿は消えていた。

 ドアを開けて外に出れば、道にまで広がっていたはずのドワーフたちの姿は消えていた。

 机に転がり中身を机の上にこぼし地面にまで垂れていくエールの泡はシュワシュワとまだ泡立っていて。食べかけの料理や壁にたてかけた工具や武具がそのままになっている。

 先程まで騒いでいた人々の痕跡をそのままに……通りから、全ての人々が消えていた。

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