無いはずの胃が痛む

「そもそもの話なんですが……」

「あ?」

「その集まったドラゴンは、協力し合えるんですか?」


 そう、ミレイヌの懸念はまさにそこだ。ドラゴンとは一般的にはモンスターとして知られている。

 しかし実際には竜神に認められし世界の守護者であり、無限の魔力を振るうモノだ。

 その生態としてはあらゆる環境に適応し、あらゆる攻撃にも適応する。

 つまるところ「何処までも成長する最強」であり、抗うことを考えるのが愚かなほどの相手だ。

 ……と、そこまでなら別にまだいい。問題は、そこから先だ。

 ドラゴンはとにかく性格に難がある。キコリは例外と言えるが、そんなキコリだってドラゴンである以上持っているのが「エゴ」だ。

 他者に理解できるもの、できないもの。色々あるが、エゴに反する行動はドラゴンは行わない。

 そして基本的にドラゴンのエゴを理解する者はいない。まあ、これは当然だ……ドラゴンに会いに行って「貴方のエゴは何ですか」と聞けるようなスペシャルな馬鹿がいるはずもないし、いたとして生き残っているはずもない。

 ともかくドラゴンとはとにかく「理解しがたい絶対強者」であり、そんなものが一堂に集結したとして、仲良くお茶をしている姿などミレイヌには想像すら出来ない。


「協力は出来るさ。する理由があるからな」

「……それは聞いてもいいものですか?」

「キコリを助ける。それとシャルシャーンが嫌い。そんなところだな」


 安心だろ、と言うアイアースにしかし、ミレイヌは再び机に突っ伏してしまう。


「それってつまり、『不在のシャルシャーン』が来たら此処が焦土と化すのでは……?」

「ま、たぶん平気だろ」

「何を根拠に」

「俺様のカンだ」

「そうですか……」


 文句をつけられない類の根拠にミレイヌは溜息すらつけずに……それでもなんとか起き上がる。


「まあ、いいです。それでドラゴンの皆さんはいつ到着されるのですか?」

「あ? そんなもん準備が出来次第に決まってるだろ。気の早いやつはもう……」

「た、大変です!」


 そこに慌てて駆け込んできたのは悪魔の執事アウルだった。冷静な彼らしくない態度にミレイヌは嫌な予感がダース単位で襲ってくるのを感じながらも「どうしました」とアウルへ問いかける。


「そ、それが……町の外に『創土のドンドリウス』を名乗る男が……」

「あー、ドンドリウスの奴の方が早かったか」


 てっきりヴォルカニオンが最初だと思ったんだがな、と言うアイアースの言葉はもう聞こえてはいない。

 創土のドンドリウス。協力を要請しようとしたこともある「話にならないドラゴン」の1体。

 それが来たと聞いて……ミレイヌは無いはずの胃が痛むのを感じていた。

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