ドラゴンならこんなもんは簡単だ

 アイアースを一時的な仲間に加えたキコリたちだが……アイアースは本当にキコリたちの思った以上に大人しく、そして思った通りに過激だとすぐに知ることになる。

 次のエリアに向かっている最中に現れたデモントロールへの対応などは、それを非常に分かりやすく示している。


「む……! デモンか」


 ゆらりと何もない場所像を結ぶようにして出現するデモントロールにドドが警戒の声をあげれば、誰より早くキコリが斧を構えて飛び掛かる。

 ズドン、と。出現したその瞬間に振り下ろす斧はデモントロールの頭に炸裂し、その一撃でデモントロールを葬り去る。そしてその間、アイアースは動く気配すら見せてはいない。


「ふーん……なるほどな」


 ただ、そんな感想じみた呟きだけを漏らして。続けて周囲に現れるデモントロールの胸にアイアースの槍が深々と突き刺さる。キコリとは違うが、一瞬で距離を詰め槍を繰り出したのだ。


「グ、グオ」

「おっと」


 それでも動こうとしたデモントロールを2度、3度と残像すら見える突きで刺し殺し、アイアースは「不便なもんだ」と溜息をつく。

 その間にドドもメイスでデモントロールを殴り殺しているが……誰の目から見てもドラゴンらしくはない。

 全員の視線が集中していることに気付いたのか、アイアースはニッと笑ってみせる。


「どうだよ。こういうのが人間らしいんだろ?」

「あ、ああ。アイアース……って、元人間だったりするのか?」

「んなわけねえだろ。そんな『生まれ」はお前だけだキコリ。ドラゴンにゃ『元々』と『成り上がり』がいるが……俺様は元クラゲだよ。知ってると思ったがな」


 海嘯のアイアース。それは海に揺蕩うクラゲでしかなかったモノ、けれどそれに似つかわしくない「生存への執着」を持っていた個体が幾つもの偶然を重ねドラゴンクラウンを得るに至ったものだ。

 そのエゴは当然のように「生存への執着」であり、本気でその方向で動けば他のドラゴンであってもアイアースを殺し切るのは至難と言われるほどだ。

 だが同時に他の生き物からしてみれば「海嘯のアイアース」ほどドラゴンの凶悪さを体現するものはいない……ともされている。

 もっとも、アイアースに攻撃されるような状況で生きている生き物が偶然以外で存在する可能性は限りなく低いので、遠めに見てもそう思えた……程度が真実なのだろうが。


「そうか。そんな姿してるから元人間かと思ったよ」

「ハッ! お前はその姿に固執してるみてえだけどな。ドラゴンならこんなもんは簡単だ。お前に妙なもんつけてるユグトレイルの野郎だって、それっぽい姿になってんのを見たことあるぜ?」

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