一応妖精の一種らしい

 転移門の近くで座り、ただ時間が過ぎるのを待つ。

 日が暮れ始めて夜の闇が迫って来ると、オルフェがトレントの残骸を持ってきて魔法で火を点ける。


「こうしとくとね、連中寄ってこないらしいわよ」

「へえ、そうなのか」

「仲間を殺して火を点けるような連中を恐れるんじゃないか、てさ」


 伝聞系、ということは誰かに聞いたのだろうが……妖精仲間だろうか?

 そんなことを考え、キコリはクスリと笑う。


「随分前に人間がそんな事言っててさー、なんか得意げでムカついたから魔法撃ち込んだのよねー」

「あー……そういう……」

(そういえば人間大嫌いだったなオルフェは……)


 一緒に過ごしていると忘れがちになるが、オルフェは……というか妖精は人間が大嫌いだ。

 妖精全体が「そう」なのだから、今更変わる事もないだろうが。


「……そういえば『世界樹は妖精と共にある』ってヴォルカニオンは言ってたよな」

「そうね」

「どういう意味だろうな……?」

「さあ? 予想は出来るけど、正解かどうかは分かんないわよ」


 それでも聞いてみたい。キコリがそう考えながらオルフェをじっと見ると、オルフェは小さく溜息をつく。


「さっきのトレント。あれ、分類的には樹の妖精らしいわよ」

「あれ、妖精だったのか」

「言っとくけど妖精は誰もトレントが同類とか思ってないわよ」

「え? でも樹の妖精なんだろ?」

「明らかに別物じゃない。せめて飛んでからモノ言えってのよ」

「そんな無茶な」

 

 トレントに羽が生えて飛んでいる姿を想像するのは、ちょっとキコリとしては「気味が悪い」と思ってしまうのだが……まあ、確かに妖精とトレントを同じ分類にするのはキコリとしても少し難しいかもしれない。


「……まさか世界樹ってトレントの異常進化体とかじゃないよな」

「違うでしょ。トレントはトレントよ。そもそも人間の国でも世界樹は有難がられてるんじゃないの?」

「その割には、世界樹に関する本が何処にもなかったんだよな……」


 まあ、世界樹がモンスターだったら世界樹の葉などを持ち帰る者などいるはずもないだろう。

 だから、その可能性は低い……とは思うのだが。

 

「……一応覚悟はしとくか」

「ま、それがいいでしょうね。何が起こるか分かんないし」

「ああ、それと……」


 キコリが盾代わりに構えた斧が、飛んできた何かを弾く。

 キイン、と音を立てて弾かれたソレは……黒塗りの、矢。


「オルフェ! ゴブリンに似てて頭の天辺が赤くて尖ってる! なんて奴だ!?」

「レッドキャップ! ゴブリンに似てる『だけ』の……一応妖精の一種らしいわ!」

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