よし、やろうドド

 とにかく、向こうが此方を警戒しているのであれば下手に動くのは無しだとキコリたちはその場で立ち止まる。

 妖精を知っているのであれば魔法の達人であることも知っているだろうし、何かするつもりだと思われてはどうしようもない。

 此方にはドドもいるのだから誤解もすぐに解けるだろうという目論見もあった。

 だからこそキコリが視線でドドに促せば、ドドも頷く。

 そうしてドドが叫んだ言葉はキコリにはやはり理解できなかったが「同胞よ、こちらは敵ではない」といった内容の呼びかけであるらしい。

 それに対して今のところ返答は……返ってきていない。

 その上、村の中から飛び出てきたのは武装したオークたちだった。

 何やら叫ぶオークたちとドドはしばらく会話をしていたが、その間にもキコリたちに武器を突きつけるオークたちの包囲網が完成しようとしていた。

 そして、ドドは……やがて、大きく溜息をつく。


「ダメだ。プライドの問題になっている」

「どういうことだ?」

「以前妖精とトラブルがあって、村一番の戦士が成す術なく殺されたそうだ。此処は戦士の村だから、妖精に負けたという事実をどうにかせねばならんらしい」

「それでなんであたしなのよ。関係ないでしょ」

「とにかく妖精に勝ちたいのだろう。戦士の村はそういうところがある」


 キコリにもオルフェにもあまり分からない感覚だが、どうにもそういうものであるらしい。

 ……となるとオークが人間に襲い掛かってくるのも「人間にオークの誰かが負けたから人間を見つけたら倒す」みたいな事例も混ざっていたりするのだろうか、などとキコリはそんなことを考えてしまうが、とりあえずこの事態をどうにかしなければならない。


「とはいえ、オルフェを差し出すなんて出来ないぞ俺は」

「ドドもそれには同意しよう」

「じゃあどうすんのよ」

「決まっている」


 ドドはメイスを肩に担ぐと、同胞であるはずのオークへ向ける視線を剣呑なものへと変える。


「殺さない程度に殴る。全員やれば納得せざるを得なくなる」

「力尽くで黙らせるってことか」

「そうとも言う」

「そうとしか言わねーのよ。つーかその案件だとあたしに出来ること限られるんだけど?」


 言いながらも、オルフェは周囲に油断なく視線を巡らせる。


「よし、やろうドド」

「ああ、キコリ」


 キコリとドドは互いに背を向けあうと、そのまま地面を蹴り「発進」する。

 ドドのシールドチャージがオークを吹っ飛ばし、キコリがオークの足元で思い切り態勢を低くして腕を起点にスピンし膝裏への蹴り……つまるところ豪快な膝カックンを仕掛けていく。

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