だから気付かないんだ
そうして歩いていると、幾つかの店が見当たるようになる。
勿論商品などないが食材店、雑貨店などもある。
食材店は仕方ないとしても雑貨店らしき看板の店先にカゴ1つ無いのは、全部持っていかれてしまったのだろうか?
「看板の文字が読めないのが痛いな」
「読めたら何か変わるの?」
「いや、俺の主観だとこの店は雑貨店に見えるんだけどさ」
「うん」
「……そこの食材店と全く作りが同じに見えるんだよな」
キコリがそう聞くと、オルフェは首を傾げる。
「それの何が引っかかってるのか分かんないんだけど」
「いや、たいした話じゃないんだ。この町……なんか妙に似た感じの建物が多い気がするんだよな」
意図的にそうしているのだとしたら、随分と都市計画のしっかりした町だったのだろうとキコリは思う。
店の形を同じにすることなど、余程の統制がないと無理なことだろう。
防衛都市ですら、建物は色々とバラつきが多いのだから。
商品を並べる為であろうスペースと、その奥に少し急な階段。
登ってみると生活スペースなのか、ベッドが置いてあるのが分かる。
窓は嵌め殺しなのだろうか、開く為の仕組みは何処にもない。
「……これは……」
「何もないわね」
「ああ。生活感が微塵もない。此処では暮らしてなかったってことか?」
「んー……」
キコリの言葉に、オルフェも小さく唸る。
さっき感じた懸念が現実のものであるような、そんな予感がしたのだ。
「キコリ。どこでもいいから普通の家の中見に行かない?」
「ああ、俺もそう思ってた」
階段を降りて、適当な家のドアを開ける。
その中は……テーブルに椅子、ベッド。
そして、調理台と調理器具の数々。
「やっぱり。この町、変だ」
「そうよね。あたしでも分かるわ」
「水場もなければ焼き場も煮炊きする場所もないのに、調理器具だけは揃ってる」
「トイレもないわよね。人間はアレ必要なんでしょ?」
他にも色々と変な場所はあるが、それは「個性の問題」で済む。
だが……キコリは此処に来るまでの間、井戸の1つも見てはいないのだ。
「なんだろう。何か変だ。確かに町なんだが、物凄い違和感がある。今まで誰も気付かなかったのか?」
「バカだからじゃないの?」
「いや……うーん……」
流石にそうではないと思いたいが……キコリは考えて、ハッとする。
「あ、そうか。普通の冒険者は家なんか持ってないんだ」
「はあ?」
そう、普通の冒険者は雑魚寝の安宿、それなりの冒険者でも個室があるとか飯がついたりとか、そういう宿暮らしだ。
家を持っている冒険者など、ほぼ居ない。だから気付かない。
「此処に来るのは全員冒険者。ジオフェルドさん達も何かで来ることはあったとしても基本的には報告頼り。だから気付かないんだ。此処に来る奴が皆『普通の家』を知らないから」
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