この手に斧があるなら
「……」
2体のレッドキャップを倒して、キコリは周囲を注意深く見回す。
続く襲撃は、ない。木の陰に隠れているかもしれないが、少なくとも目に見える範囲に「3体目」は居ない。
油断はしない。斧を構えたまま、キコリは小さく息を吐いて。
「ロックアロー」
「ギアアアアアア!」
茂みの中で杖を構え息を潜めていた「3体目」をオルフェの魔法が……いつもよりも激しい威力の魔法が串刺しにする。
茂みの中から転がり出てくる短杖を見てキコリは「ああ、やっぱりいたのか」と呟く。
「ったく、夜襲仕掛けてこようなんてロクでもないわね」
「ま、それも戦術だろ」
言いながらキコリは落ちているナイフを拾って見分する。
刃物の鑑定など出来るはずもないが……見て分かる事もある。
たとえば、しっかりと手入れされた『統一されたデザイン』であることだとか。
たとえば、かなり繊細に仕上げられたものであることだとか。
「……奪ったものじゃないよな。オークとかが作ったのか?」
「知らないけど。こいつ等が手に入れられるような手段はあるんでしょうね」
「オルフェは何か心当たりとかって」
「あたしだって全部は知らないわよ。こいつ等だってあの女の家の本で知ったくらいだし」
肩をすくめるオルフェにキコリはそれもそうか、と頷く。
そんなキコリをそのままに、オルフェは手を握ったり開いたりしながら溜息をつく。
「そんなことより、此処はやっぱり怖い場所ね。あたしですら魔法の調整が難しいわ」
「俺はそうでもないけどな。ミョルニルも『いつもより少し強いかな』程度だったぞ?」
「それはね。アンタが意図的にチャージを抑制してるから、そのカスみたいな魔力容量の内でやってる影響なの。100を3倍にすれば300だけど、アンタの場合は1を3にしてるようなもんだから」
「カス……」
「異論があるなら言ってみなさいよ」
「いや、ないけど。それならフェアリーマントで多少跳んでもいいんじゃないか?」
「慣れてない魔法をいつもより威力出る状況で使うんじゃないわよ」
「……まあ、そうだな」
そういう意味では、グングニルも使わない方が無難ではあるだろう。どうなるか分かったものではない。
「まあ、アタシも此処ではあまり強い魔法とか複雑な魔法は使えそうにないわね。どうなるか分かったもんじゃないわ」
「オルフェでもそうなら、俺には無理だな」
「そうね。自重なさいよ」
「分かった」
ただでさえ少ない手札に制限がかかり続ける状況だが、仕方のない事だとキコリは思う。
たかが魔法が使いにくい程度。その程度なら、何のハンデでもない。
この手に斧があるなら、それで何でも叩き割ってきたのだから。
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