本物の町のような何か
そうしてキコリたちは、ねじくれた屋敷の中を進んでいく。
どういうわけかメモリースライムたちは襲ってはこなかったが、何やら監視するような視線は感じていた。
キコリたちを恐れているというわけではないだろう。今までいた図書館でも感じていた「仕方なく襲わない」とでもいうかのような空気。その原因は……恐らくは。
「オルフェが……妖精女王がいるから、か?」
「ええ……? 別にスライムに縁はないんだけど」
「別に間違った話でもねえさ。妖精女王の本質は統率者だ。スライムみてえな自我が曖昧な連中が惹かれ畏れても不思議じゃねえよ」
「そういうもの、なのかしら」
アイアースの言葉に納得したような、そうでもないような表情を浮かべるオルフェだが、キコリとしてはメモリースライムが襲ってこないというのであれば歓迎ではあった。
「……ついてきたりしてな。メモリースライム」
「やめてよ。ついてこられてもどうしろってのよ」
「ドドは意外に役に立つかもしれないと思うぞ。変形するんだろう?」
「だからなんだってのよ……」
溜息をつくオルフェだが、言われてキコリは考えてみる。
たとえば言うことを聞いてくれるなら状況に応じて変形する武器などにはなりそうだが、キコリの場合自前の武器の方が強いし、ドドも悪魔のメイスのほうが強いだろう。
「そもそも、メモリースライムがどうして此処に居るのかもよく分からないんだよな」
「そんなのメモリースライムの勝手でしょ」
「……かもな」
歩いて、歩いて。やがて、キコリたちはようやく転移門の前へと辿り着く。
この先に何が待っているかなど予想できるはずもないが、それはいつものこと。
キコリたちは転移門を潜り、その先へ進み……そして、絶句する。
「なんだ……? アレは」
広い平原と、川。そして……大きな町が、そこにはあった。
此処からはまだ離れた場所にあり、しかしはっきりと町と分かるその場所には出入りする人々のような影が見える。まあ、そのシルエットは明らかに人間ではないのだが。
そう、かつて見た「生きている町」などとは違う、本物の町のような何かがそこにはあった。
町を守る壁らしきものは見えないが、別にそこは重要ではない。
それにオークたちだって村を作っているのだから大きな町程度があったところで、何もおかしくはない……のかもしれない。
問題は、アレが何処の何者が統治する町なのか、ということくらいだろうか?
「ドド、オルフェ。ああいうものに見覚えは?」
「知らん。あんなものがあったのか」
「私も知らないわ。でも悪魔が町を作るんだから不思議な話じゃないでしょ」
「……確かにな。アイアースは何か知ってるか?」
キコリが聞けばアイアースは首を横に振って否定する。
「いやあ、知らねえな。この段階でどうこう言うものでもなさそうだしな」
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