それが此処の貨幣
「行ってみるしかないってことか」
まあ、どのみち「行かない」という選択肢はない。
キコリたちは頷きあうと遠くに見える町へと歩いていくが……そうすると、それが思っていたよりもずっとしっかりとした町であることが分かってくる。
レンガ造りの町は頑丈そうで、囲う壁もなければ石畳を敷いているわけでもない。しかし、優秀な職人がいるのだろうと感じさせるものだ。
そして決して無防備なわけではなく、町の中へと繋がる道には衛兵が立っている。
その衛兵は……驚くべきことに、鎧兜を纏った、人型の鳥……といった風体のモンスターだった。
少なくとも人間社会では知られていないモンスターだし、獣人でもないようだ。
近づくと槍をスイッと動かし、そのくちばしのような口を開く。
「バードマンを見るのは初めてって顔だな」
「バ、バードマン?」
「まあ、俺もお前らみたいな変な組み合わせは見たことがねえ……妖精とオーク、人間っぽい何かが2人。お前ら2人、何の種族なんだ? 悪魔か?」
「ドラゴンって言ったら信じんのか?」
アイアースがそう言えば、バードマンの衛兵は大きく笑う。
「ハハハ、ドラゴンか、大きく出たな!」
イラッとした様子のアイアースを軽く押さえると、キコリは「通っていいのか?」と問いかける。
「ああ、いいとも! ようこそフレインの町へ。お前らがドラゴンだろうが人間だろうが、実は関係なくてな。壊したり奪ったりするような輩じゃなけりゃ、大歓迎だ」
槍をどけて道を開けるバードマンの衛兵に「ケッ」と悪態をつくアイアースを引きずりながら、キコリたちは町の中へ入っていく。
「しかしまあ、皆魔力が高いな。またえらいもんがやってきたもんだ」
そんなバードマンの衛兵の声を聞きながら入ったフレインの町は、実に騒がしい場所だった。
建物は大体何らかの店であるようで、店先に品物がたくさん並んでいる。
果物に何かの肉、魚……パンまである。武器や防具まで並んでいるが、どれも立派なものだ。
料理店もあるのだろう、美味しそうな香りも漂ってくる。
「黒豆パンが焼けたぞォ! 今日は出てるだけで仕舞いだ、買い逃しても知らねえからな!」
随分強気な呼び込みだが、余程自信があるのだろう。実際、その辺りにいたコボルトやゴブリンたちが近寄っていく。
「ヒトツクレ!」
「フタツダ!」
「金はあるんだろうな、手前等。食い逃げなんぞしたらミンチにして向かいの肉屋に売るぞ」
「そんなもん1セーンにもなるかカス! 売りに来たら殺すぞ!」
角のある筋骨隆々とした……オーガのパン屋と肉屋が互いにそんなことを言い合っているのが聞こえてくる。
セーン。それが此処の貨幣なのだろうと、キコリはそんなことを考えながら聞いていた。
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