選びたまえ

 何故。

 その質問は非常に難しい。

 しかし、1つのシンプルな答えは自然と導き出される。


「俺のドラゴンクラウンは、欠陥品だからだ」

「然り」


 男の目の前に浮かぶ王冠は、恐らくキコリのドラゴンクラウンを示すものなのだろうと思われた。

 わざわざからかう為に用意したとも思えないが……まあ、こんな空間ではそんなこともあるだろうか。


「しかし、その回答ではまだ不完全だ」

「なら、正解は?」

「簡単だよ。キコリ、君はドラゴンではない。そうだろう?」

「ああ。俺は人間だ」

「そう、君は人間だった。だが如何なる偶然かドラゴンクラウンらしきものを得てしまったが故に、少しだけズレた」


 男はそう言うと、キコリに笑いかける。


「境界線でユラユラしている君の存在は非常に気持ち悪い。しかしね、キコリ。だからこそ私は君に選択肢を用意しようと思う」

「選択肢……」

「そう、まずは1つ目」


 男の右側に、光る道が出来る。それが何処に続いているのかは……分からない。


「ドラゴンクラウンもどきを消し去り、君は人に戻る。貴重な選択だ……私以外に君を人に戻せる奴は居やしない」


 男の左側に、光る道が出来る。燃え盛る炎の中へと続いているのが見える。


「完全なドラゴンクラウンを得て、君は人を辞める。辛い選択だ、君は世界最弱のドラゴンになってしまうだろう」


 選びたまえ、と男は言う。

 どちらを選んでも叶えてあげようと。これが最後のチャンスだと。

 とても親切な……そんな風に思える。

 だが、そうでないと分かってしまう。

 これは、実質1つしかない選択だ……生きたいと、願うならば。


「俺は、ドラゴンになる」

「いいのかい? 人に戻った方がいいのでは? あのオルフェとかいう妖精も今更君を嫌わないだろう」

「そうだとしても、人を選べば俺は死ぬ。あのグレートワイバーンが俺を殺す。そういうことだろ?」


 キコリの返答に男は……軽く肩をすくめる。


「然り。つまらん男だ。人にこだわって千切れてバラバラになって死ぬも一興だと思うのだけどね」


 光る道が、両方とも消えて。男が手をかざした冠が、光り輝く素晴らしい冠へと変わっていく。

 それは先程までのみすぼらしいものとは段違いのものだ。


「確かドラゴニアンとか名乗っていたね」

「え、ああ」

「ならば君はこれからドラゴニアンのキコリと名乗るがいい。他ならぬ私がそれを許そう」

「許すって……アンタは、まさか」

「薄々予想はしてたんだろう?」


 男の手の中で輝く冠が、キコリの頭の上へと載せられる。

 

「今日が君の戴冠式だ、ドラゴニアンのキコリ。最も新しく、最も弱きドラゴンよ。私は……竜神ファルケロスは、君の行く末を楽しみに見守るとしよう」


 瞬間、キコリの視界は切り替わって。

 キコリは……自分が魔力の竜巻に適応していることに、気付いていた。

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