岩ヤドカリ
そうしてキコリたちが辿り着いた次のエリアは……どうやら、無数の岩山が立ち並ぶ場所のようであった。
キコリたちの身長を遥かに超える岩がそびえたつ光景は、感動というよりは畏怖をも感じさせた。
地面は乾いており、然程生物や植物が育つには良い環境ではないことを知らせてくる。
まあ、こんな場所で育つのは特殊なものだろうが……キコリは構わず一歩を踏み出す。
「オークの集落でもあればよかったんだが……こんな場所にはなさそうだな」
「む。何故だキコリ」
「ドドの鎧。新しいの要るだろ」
「確かにな」
ドドの悪魔の鎧は壊れてしまったし、悪魔の盾はまだ使えるがメンテも必要だ。
キコリのものと違ってメンテが必要な武具である以上、何処か設備の整った場所に行ければ良いのだが……残念なことに、そうした場所が此処にあるとは思えないのだ。
「ま、いいんじゃない? ハイオークが普通のオークの集落行っても、下手すると祀り上げられるわよ」
「む」
「そういうもんなのか……」
「等しく雑魚だろ。わっかんねえな」
ドドが分かってしまったような顔を、キコリが難しそうな表情を、アイアースがくだらなそうな顔をする。まさに三者三葉だが、実際ハイオークはオークの一段上の存在であり、他のオークを統率するに足る器であるともいえる。
祀り上げられなかったとしても、ある程度の騒ぎになるのは恐らく避けられそうにはない。
「そうなると面倒そうだし……こういう場所でよかった、のか?」
キコリがそう言った直後、巨大な岩の1つが振動するように揺れる。
「……ん?」
それが何であるかは、すぐに分かった。持ち上がった岩と、その下から出てきたカニかエビのような何か。岩を背負うその姿は、例えていうならばヤドカリだ……!
だが一軒家ほどはあろうかという巨大な岩を背負うそれは、明らかにただのヤドカリなどではない。
「な、なんだこいつ⁉」
キコリは即座に斧を構え襲い掛かるが、その巨大な岩の下に入った瞬間。嫌な予感がしてバックステップでその場から逃れる。
その数瞬後にズン、と岩が地面に落下するようにして元に戻る。
殻に閉じこもったといえば可愛いが、目の前で展開された光景は一切可愛くない。
下手をすればあの小山のような岩に潰されていたかもしれないのだ。
「本で見たことあるぞ……岩ヤドカリだ。でも、こんなサイズのやつが……!」
岩ヤドカリ。自分に合うサイズの岩を掘って住むという、ヤドカリ型のモンスターである。
ミミックとも呼ばれる擬態型のモンスターの中でも比較的上位のそのモンスターが、此処に居たのだ……!
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