本気でバカよ、アンタ

 その「個人的な理由」が何なのか、ドドは勿論だがオルフェも分からない。

 ドドに付き合う……といったような理由でないのは明確だ。

 そうであれば、キコリはそう言うだろうから。ならば、その理由ではない。

 だから、オルフェはキコリに真正面からその疑問をぶつける。


「その理由っての、聞かせてくれるの?」


 だが、キコリは「うーん」と唸ると照れたように笑う。


「いや、言えない。言うとしても後でだな」

「何それ……」

「さ、行こう。奴がいつ気付くか分からない」


 歩きだすキコリの先には、巨大なスケルトンドラゴンの姿が見える。

 いや、トルケイシャが「偽ドラゴン」だというなら、アレをスケルトンドラゴンと呼ぶのも、あるいは間違っているのかもしれない。

 しかし、見た目は少なくともそう評するしかない。

 呆けたような……見た目だけで言えばドラゴンの骨が鎮座しているようなその光景は、この紫の大地によって毒々しさを増している。

 あのスケルトンドラゴン……トルケイシャもまた紫色のオーラのようなものをその骨に纏わせており、強大な魔力が内部に収まりきっていないのがよく分かる光景だった。

 しかし、何故なのか……トルケイシャは近づくキコリたちに全く気付かないかのように身じろぎ一つしない。

 それが何故かは分からない、分かるはずもない。しかし、この千載一遇のチャンスに……トルケイシャまであと少しというところでキコリとドドは立ち止まり、頷きあう。

 そして……叫ぶ。


「トルケイシャアアアアアアアアアアアアアア!」

「邪悪なるネクロマンサー! オークの戦士ドドは今再び貴様の前に立ったぞ! 今から……」

 

 最初に響いたのは、キコリの声。続けてドドの宣言が響き渡り……そして。


「貴様を殺す!」


 2つの声が、唱和する。


「おおおおおおおおお!」

「ミョルニル!」


 ドドのメイスがトルケイシャの足の骨に叩き込まれ、キコリの斧が電撃を纏う。

 投擲された斧はやはりトルケイシャの足を狙って……そのトルケイシャの骨が砕け、焦げ……しかし、紫のオーラが纏わりつき破損個所を壊す速度を上回る速度で修復していく。

 そして……トルケイシャが、僅かに振動し始める。


「オ、オオ……オオオ……贄が、きた。私を真なるものにする為の贄。食い損ねた贄が、戻ってきた」


 意味の分からない呟き。しかし、その暗い眼窩に宿った光はオルフェをしっかりと見ていて。

 オルフェは瞬間、全てを理解する。

 分かってみれば、なんとも……ああ、なんとも。


「そういうこと。アンタ……自分の魔力を扱いきれてないのね。そして、アンタが食べたかったのはキコリじゃない」

「そうだ! 私の身体は完成した! そして妖精よ……君をアンデッドと化し喰らうことで私はこの偉大なる身体の運用方法を手に入れる! そうすれば、私はいよいよ……!」

「だからか」


 オルフェは額を手で押さえながら、トルケイシャに向けて炎弾を数発放つ。


「ぬうっ、この程度のもの……!」

「この戦い……あたしの為か」


 分かってみれば、なんともキコリらしい。

 オルフェの為。オルフェを……妖精を狙っていたトルケイシャを止めなければ、オルフェが、そして妖精が危機に陥るから。

 だから、キコリは勝てるかどうかという計算を全て捨てて、この場にやってきたのだ。

 それが……オルフェには、分かってしまった。


「本気でバカよ、アンタ」

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