英雄として死んで咲く花よりも

 武器破壊魔法ソードブレイカー。

 使い方、対象の武器に触れて「砕ける」イメージを思い浮かべ、魔力を籠めて放つ。

 注釈、この魔法を使いこなせるのもまた英雄のみであった。基本的に強い武器ほど破壊に要する魔力も高くなるのだから。


「ああ、やっぱり魔力が重要なんですね」

「そういうことですねー。あ、なんなら試してみます?」


 言いながらアリアが取り出してきたのは、その辺りに置いてあったホウキだ。

 部屋の中を軽く掃除する用の短いホウキだが、そんな実験に使っていいのだろうか?

 悩むキコリが「いいんですか?」と聞けば「いいですよー」という反応が返ってくる。


「安いホウキですし。練習もせずに使うよりは良いんじゃないですかね」

「えっ」

「これなら使えそうって顔に書いてありましたもの」

「そんなに分かりやすいですかね……」

「そりゃもう」


 頷くアリアに落ち込みつつも、キコリはアリアの持つホウキに触れる。

 これが砕けるイメージ。木材だから……まあ、バキンといく感じだろうかとキコリはイメージする。

 ホウキの木材が劣化して折れるような、そんなイメージと共に魔力を……。


「……魔力、を……」

「どうしました?」

「魔力を籠めるって、どういう感覚なんでしょう?」

「あちゃー……」


 アリアはホウキを元の場所に戻すと、机の上に置いた本の中から「やさしい魔法入門」と書かれた本を取り出す。


「先にコレ、読みましょうか。絵本だから分かりやすいですよ」

「ありがとうございます……」


 ちょっと恥ずかしさで顔を赤くしながらも、キコリは「やさしい魔法入門」を開く。

 それを読んでいるキコリの背後に回ると、アリアはそのまま圧し掛かってくる。


「ア、アリアさん?」

「キコリは頑張ってますよねえ。ぶっちゃけ才能が無いと思ってるのは今も変わらないんですが」

「ええ……?」

「でも、キコリは成果を出してます。キコリよりずっと才能のある人が一日で死んだりしてるのに」


 そういえばゴブリンも大人が泣くような相手だと聞いたのをキコリは思い出す。

 ……まあ、キコリは斧の持つ攻撃力でごり押ししてるような状態だ。

 もっとマトモに戦おうと思えば、とても生き残れないのかもしれない。

 今だって、相当無様な戦い方だという自覚はある。

 しかし、それでも。お上品に戦って死ぬより、キコリは無様に生きていたいのだ。


「……俺は、無様でも生きていたいんです」

「その考え方は共感出来ますよ。人間、生き残った者の勝ちです。英雄として死んで咲く花よりも、無様に生きて、惨めに寿命で死んで咲く花の方が私は幸せだと思いますよ?」


 それは、キコリもその通りだと思う。

 カッコよく死にたくなんて、ない。

 そんな生き様は向いてないと……そう、思うのだ。

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