我慢比べ

 そして、地面に置かれた枝などを組み合わせた「それっぽいオブジェ」が出来上がる。

 見ようによってはそれは、焚火をする為の何かに見えないこともない。

 まあ、人間が見れば「何だコレ」になるであろうことは確実な程度の「何か」でしかないのだが。


「……何コレ?」

「焚火っぽいやつ」


 まあ、妖精から見ても「何だコレ」であったようだが……それで問題ないのだ。

 木の陰に隠れるキコリを追いかけながら、オルフェは「いくらなんでもアレはないんじゃない?」と声をかけてくるが、まああまりにも当然すぎる。


「いいんだよ、アレで。なんか気になるだろ?」

「そりゃまあ」

「気になるってことは……」


 上空を奔る影1つ。ワイバーンがキコリの組んだ「焚火もどき」を見つけ、「キルルルル……」と高い声をあげる。

 同時にその場で旋回を始め、キコリは静かに移動を開始する。

 周囲からワイバーンが集まってくる中、キコリとオルフェはその場を離脱するが、完全に離れた後、どんどんと集まってくるワイバーンを見ながらオルフェは信じられないような表情になる。


「うっそでしょ……あんなのに引っかかってる」

「明らかに人為的な痕跡なんだ。人間文化に詳しくない相手には充分だろ」

「言われてみるとそうかもだけど」

「それより今ので確定したこともある」


 そう、それが分かったことが何よりも重要だ。


「今、ワイバーンは仲間を集めた。つまり、群れを作ってる」

「まあ、そうね?」

「なら、何処かに群れのリーダーがいるのが確定したと考えていいと思う」


 そう、ゴブリンの群れをゴブリンジェネラルが率いていたように。

 妖精の森を襲撃し、今此処に居るワイバーンも「何か」に統率されている。

 今のワイバーンたちの対応で、それが確定したのだ。

 そしてそれは、恐らくあの中には居ない。

 なら、何処にいるのか?


「大体予想は出来るが……」

「攻め込むのね?」

「いや。我慢比べだ。わざわざ誘い込まれる必要もない」


 ワイバーンの統率者のいる場所へ攻め込んでも、今のように仲間を呼ばれるのはもう分かっている。

 それならば、攻め込むのはむしろ悪手でしかない。


「我慢比べって。何しようってのよ」

「決まってる。今のと同じようなのを幾つも仕掛けて、連中を疲れさせるんだ」


 そのキコリの言葉通り、キコリの仕掛けた「それっぽいもの」を見つける度にワイバーンは仲間を呼ぶが……次第に向かってくるワイバーンの数は減り、動きにも雑さが出てくるのが見えていた。

 そして2日後にもなるとワイバーンは仲間を呼ぶこともしなくなり……急降下してオブジェを踏み潰すようになる。

 だが、そうなれば当然。


「ギイイイイイイ!?」


 そう、そうなれば当然。木の上で待ち構えていたキコリとオルフェの格好の標的となる。

 それは文字通り、我慢比べにキコリたちが勝利した瞬間でもあった。

 そこから更に数日。ワイバーンの姿は、ついに空から消えていた。

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