誇り高き妖精騎士

 明らかに脅えて固まっている様子の妖精だが……瞳に涙を湛えぷるぷる震えだす。


「く、来るなら来い! 誇り高き妖精騎士として、ドラゴンなんかには屈しないぞ!」

「え、これ俺が悪いのか?」


 なんだか自分が悪人みたいに思えてきたキコリがオルフェとドドへ助けを求めるように視線を向ければ、2人は難しい表情になってしまう。


「どう、だろうな。正直、今のは小さきものには恐ろしかったのではと思うが」

「怖いに決まってんでしょうが。せめて『誰だ!』くらいにしときなさいよ」

「そ、そっか……なんかごめんな。つい先手取ろうと思っちゃって」


 背後でオルフェが「バーサーカー……」と呟いているのを聞き流しながらキコリは妖精に可能な限り優しい顔を向ける。


「ヒイッ、なんか笑ってる……!」

「ええ……?」

「ちょっと、いいからキコリはあっち行ってて。ドドも後ろ向いてなさい」

「何故だ……」


 言いながらもドドは後ろを向き、キコリも少し離れると……オルフェが妖精に近づいていく。


「アンタ、妖精女王の一行の一人よね? あたしはオルフェ、こっちはキコリとドド。ドドは違うけど、あたしたちはユグトレイルとも友誼を結んでるわ」

「ユグトレイル……」


 その言葉に妖精はオルフェとキコリを順繰りに見て「確かに……」と呟く。


「ユグトレイルの加護を感じる。すると、お前たちは敵じゃないのか」

「まあ、ひとまずは。で、アンタこんなとこで何してんの? 妖精女王は?」

「女王陛下は……身罷られた」

「は⁉」


 沈痛な表情で言う妖精に、オルフェはそれが冗談の類ではないと悟る。

 妖精女王が死んだ。その死因が何かによっては……とんでもない事態にもなり得る。


「……原因は?」

「トロールだ」


 ポツリと呟かれたその言葉に、キコリは聞き覚えがあった。

 トロール。オークと並ぶ凶悪な人型モンスターであり、身体能力の高さに加えて再生能力まで備えているという。そして何より……卑劣であるとも。


「奴等による襲撃の最中、女王陛下が討ち取られ、その後はもうバラバラだ……誰が生きているのかも分からない」

「……そう」


 妖精女王が死んだ。それもよりにもよってトロールの襲撃で。これは妖精にとっては非常に大きな意味のあることだ。そしてオルフェは……これをキコリたちと共有すべきだと、そう判断した。


「キコリ、ドド。知らないと思うけど、トロールは妖精の一種よ」

「お、おい……!」

「うっさい黙ってなさい」


 オルフェに手を伸ばした妖精を蹴とばすと、オルフェは言葉を続ける。


「端的に言えば、これは反乱。起こした以上は勝算があるってこと……正直、ヤバいわ。だから、手伝ってちょうだい」

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