空を飛べないけれど
跳ぶ。
たとえドラゴンのように見えるからといって」、キコリはドラゴンではない。
空を飛ぶ方法など、1つも持ってはいない。
だから、キコリは空を飛べないけれど。
空へと、跳ぶことはできた。
全身に施した、ミョルニルによる強化。
それはキコリの足に、大空へと跳ぶ力を与えていた。
だから、跳ぶ。
ズドンと、音を立てて舞い上がる。地上から空へ、稲妻が落ちる。
「飛ぶ!? 人間が!? いや、これは……!」
グレートワイバーンには見えていた。
人間にしては何だか妙な気配を纏ったソレが、ドラゴンと見紛うかのような姿になったのを。
それが、飛んだのを。
「うおおおおおおおおおおお!」
飛ぶ。舞い上がる。グレートワイバーンはキコリから逃れるため、上空へと飛んで。
しかし、キコリが追いついた。
振るう斧から流れる電撃がグレートワイバーンの身体を流れて。
「ぐ、おおおおお!?」
「サンダーアロー!」
合わせるようにオルフェの放った電撃の矢が数本グレートワイバーンへと突き刺さり、眩い程にその身体を電撃が覆う。
そしてキコリはそのまま、ミョルニルの効果で地上へと舞い戻る。
今の一撃は意表を突いた。考え得る限りの最大威力も叩き込んだ。
電撃も、グレートワイバーンを流れた。
だが、それでも。
「ハ、ハハハハハハハ! この程度か! この程度の攻撃! 俺の命に届くものかよ!」
それでも、グレートワイバーンには僅かな傷をつけたのみ。
電撃も、その表皮で防がれて内部まで浸透していない。
「……っ!」
「うっそでしょ……」
手加減などしていない。コンビネーションで威力も上がり、これ以上ないくらいの攻撃だったはずだ。
足りないのは、実力。
戦術だとか勇気だとか、そういうもの以前の問題。
キコリとオルフェの実力では、グレートワイバーンの命に届かない。
何も難しいことはない程に単純で、だからこそ残酷な現実。
グレートワイバーンを倒すほどの実力が、キコリたちにはない。
ただそれだけのことが、キコリたちに危機として襲い掛かり。
グレートワイバーンに、愉悦を与える。
「強いなあ、強い。度胸もある。たぶん貴様等のような連中が成長すると、我が物顔で領域を歩き回るんだろうなあ」
「キ、キコリ……」
「しかしなあ。貴様等は此処で死ぬ。特に、貴様だ。人間なのかどうかイマイチ分からん、貴様だよ」
グレートワイバーンの瞳は、確かにキコリを見据えている。
その瞳には、キコリを見透かそうとするかのような色があった。
「何故だろうな? 貴様は此処で確実にブチ殺しておいたほうがいい気がする」
だから、と。グレートワイバーンは急降下する。
凄まじい力で掴まれたと気付いたのは、次の瞬間。
オルフェの悲鳴が響いて……キコリは、ワイバーンに掴まれたまま、遥か空へ……高空へと舞い上がる。
「だから、死ね。貴様は絶対に死ぬようにブチ殺す」
そのままキコリを上空へと放り投げて。
ワイバーンの巻き起こした魔力の竜巻が、キコリを引き裂きながら更に空へ……空へと舞い上げる。
死ぬ。
ああ、死ぬ。
此処で、死ぬ。
何をやっても、死ぬ。
そう悟りながら……キコリは魔力の竜巻の中で、意識を失って。
そして。キコリは、真っ暗な空間に佇んでいた。
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