俺とお前で

「愚かな」

「オルフェ! 俺の後ろに!」


 ゴウ、と。グレートワイバーンの火炎放射がキコリへと降り注ぐ。


「ぐ、う……!」


 熱い、痛い。だが、適応できている。

 威力が段違いとはいえ、1度ワイバーンの炎を受けたからこそ炎はキコリに致命傷を与えるに至らない。

 自分を焼こうとする炎の中で、キコリは「ミョルニル」と叫ぶ。

 投擲した斧は、炎の中を突き進んで。


「なっ……!?」


 グレートワイバーンに命中し、その表皮を僅かに削る。

 そう、ダメージというには軽すぎる……けれど、確かな一撃。

 それはグレートワイバーンに攻撃を中止させるには充分だった。


「貴様……俺に傷を……!? それに、炎に耐えた? 馬鹿な、何をした!」

「教える必要はないな」


 グレートワイバーンは、先程から羽ばたきもせずに滞空している。

 ならば、何か魔法的な手段で飛んでいるのだろうとキコリは予測する。


(それなら……アイツ自身無茶は出来ないはずだ。そこを、突く!)


「オルフェ、ダメなら逃げていい! 此処は、俺がどうにかする!」


 キコリはそう叫び、ミョルニルで再び斧に電撃を纏わせる。

 オルフェはキコリの言葉にビクッとするが……その答えは。


「アイス……アロー!」


 グレートワイバーンへ向かって放つ、数本の氷の矢だった。

 氷の矢そのものはグレートワイバーンの表皮で弾かれてしまうが、グレートワイバーンは舌打ちしながらさらに上空へと舞い上がる。

 そのまま炎を吐くが、オルフェの「シールド!」という叫びと共に展開した半円状のドームがそれを防ぎきる。


「バ……ッカじゃないの! 組もうと言った口で逃げろとか! バカ! バーカ!」

「いや、でも」

「こんなところで逃げるなら組んでないわよ! なめんな!」


 何処となく自棄になったような叫びだが……その叫びは、キコリの心の奥に響いていた。

 あの錬金術師の少女とは違う、クーンとも違う……一緒に戦える仲間。

 オルフェはまさに、そうなのかもしれない。その事実に、キコリの頬を涙が流れる。


「ハ、ハハッ」

「何笑ってんのよ! コレ張り続けるのも結構キツいんだけど!?」

「ありがとう、オルフェ」

「どういたしましてえ!? そんな場合かバカ! ドバカ!」


 こんな場合だというのに、キコリの口からは笑い声が漏れる。

 頼もしい。とても……とても、暖かい。

 身体の奥から何かが沸き上がってきて、今までよりもずっと戦えそうな錯覚を覚える。


「オルフェ。俺とお前で、アイツを殺そう」


 あの時は、これをやって同じパーティメンバーにも引かれた。

 でも今なら、今なら大丈夫。

 ドラゴンと称された、全身にミョルニルを纏わせる……その魔法を。


「……ミョルニル」


 キコリの全身を、強烈な電撃が覆う。

 広げた両手の斧の、その先まで纏った電撃は。

 その兜の形も相まって……まるで、飛ぶ瞬間を待つドラゴンそのものに見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る