大きなミス
本当に不可思議な、そして不愉快で、吐き気のするような時間が続く。
突然現れるオークたちは同じオークであるはずのドドですら意思疎通が出来ず、オークの言葉でいう怨嗟をひたすら叫び襲ってくる。
デモン。モンスターですらない彼等が新しいダンジョンを闊歩するのはもう確定しており、だからこそキコリもオルフェもドドも、感情を消していく。
この状況が人間とモンスターの間に決定的な亀裂をもたらすことは、もう分かり切っている。
何もない場所から現れるデモンは、事情を知らない人間からすればモンスターの異常さを際立たせるものでしかない。
……もしかすると死んだ人間の姿も出るのかもしれないが、それに出会った時に人間がそれを何と呼ぶのか。
どうしようもないこの状況を引き起こしたのはトルケイシャだが、それを止められなかったのはキコリだ。だからこそ、キコリはトルケイシャを責任もってブチ殺すと決めていた。
そうして、また1体オークを倒して……キコリは、シャルシャーンに問いかける。
「……シャル。やっぱりこの状態は戻らないのか」
「戻らないよ。絶対にね。悪化はしても戻ることはない」
断言するシャルシャーンに、キコリは小さく溜息をつく。
シャルシャーンが言うからにはそうなのだろう……だからこそ、責任を強く感じるのだ。
「君が責任を感じる必要はないさ。遅かれ早かれ起こっていた話だからね」
「……だから手を出さなかったのか」
「そうだね。君にやらせるのが今後の為とボクは判断した」
その言葉を、当然のようにオルフェとドドも聞いていた。オルフェはすでにシャルと名乗る少女の正体に気付いているので「シャルシャーンがキコリをドラゴンの側に引きずろうとしている」と気付いていた。
(……今のところ止める理由もないわ。キコリはあたしが『居なかった』間に何かを得た……それが何かは分からないけど、キコリがこれまでないくらいに安定してる。なら、少なくとも害になるような何かではないはずよ)
それはオルフェの希望的観測に過ぎない。しかし、今のところはシャルシャーンというよく知りもしないドラゴンを信じるしかない。
そしてドドは、一切何の話か理解できていなかった。だから何も口を出せていない。
出せていないが……それを良しとしているわけではない。
「シャル。トルケイシャを殺しに行くというのは聞いた。しかし方角は合っているのか? ドドたちは、此処が何処かも分からない」
その当然の質問にシャルシャーンは「当然だろ」と答える。
「すぐに分かることだけどね……あの偽ドラゴンは、1つ大きなミスを犯した。だから、居場所については心配しなくていい。このボクが確実に案内すると約束しよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます