ギガントブレイカー

 魔力が満ちる。溢れる。流れ出る。

 キコリに許された器を超える魔力が、キコリを壊しながら流れ出る。

 だが、そんなことを気にしている余裕はない。

 この魔力を全て、一撃に叩き込まなければいけない。

 あの金属巨人を完膚無きまでに消し去る一撃を。

 この戦いに、完全に決着をつける一撃を。

 キコリは壊れながら1つのイメージを形作っていく。

 あの金属巨人を破壊する、そのイメージを。

 今から放つのは「ブレイク」でありながら「ブレイク」ではない。

 ブレイクの枠に収まる魔力を超えてしまった。

 だからこそ、新しい名前をつける必要がある。

 溢れ出る破壊の魔力を、制御して。制御しきれずに、新たな形に収めて。

 キコリの斧から、輝く巨大な刃が出現する。その輝く光の巨斧を、構える。


「ギガントブレイカー」


 目の前の金属巨人を殺す為に出来た魔法だからこそ。

 それ以外には、ほぼ意味のない魔法だからこそ、キコリはそう名付けて。

 キコリは、光の巨斧を振りかぶる。


「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 避ける暇はない。受けるしかない。しかし、これを受ければ。

 金属巨人は叫び腕を突き出して迎え撃とうとして。

 突き出した腕から、光の巨斧が触れる場所から、分解されていく。

 自身の存在が、それより巨大な魔力で無理矢理上書きされ破壊されていく。

 なんという、なんという恐ろしい魔法なのか。

 こうなる前の「ブレイク」という魔法もそうだった。

 相手そのものを破壊するという、とんでもない発想の魔法。

 魔力で相手の存在そのものを全ての理を超え捻じ伏せる、傲慢極まりない魔法。

 だからこそ「この姿」になったのに、こんな方法で。


「そこまでして……勝ちたい、か」

「ああ、勝ちたいね」


 返ってくる答えに「そうだろうな」と金属巨人は……ソイルレギオンは返す。

 そうだ、その通りだろう。

 勝ちたい。勝って、自らの欲するものを手に入れたい。

 だからこそ、だからこそソイルレギオンも欲したのだ。


(……ああ、愚かしい。今更俺がドラゴンに到ったところで、あの人はもう褒めてはくれないのに)


 かつて自分を作った普人のことを……天才や英雄と呼ばれた男に対抗し自分を作った普人のことを思い出しながら、ソイルレギオンは思う。


「申し訳、ございません。俺は……最後まで、貴方の期待には……」


 ソイルレギオンが、両断されて。その身体がざらりと崩れる。

 その残骸に残った魔力は、やがて消えていって……

 最後に残ったものは、何処にでもある土塊の山だった。


「……お前の過去も気になるけど。なんとなく、掘り返しちゃいけない気がするな」


 キコリはそう呟いて、光の消えた斧持つ手を下げる。

 その瞬間、キコリも膝から崩れるように倒れて。


「ああ、もう! 分かっててもムカつく!」


 そんなオルフェの叫び声が、遠くなるキコリの意識の中……しっかりと、耳に届いていた。

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