お前、強そうだったし

 走る。走って、ホブゴブリンへと斧を振るう。

 ホブゴブリンが持っているのは、それなりに立派な長剣だ。

 革鎧らしきものも着けているから、半端な攻撃はするだけ無駄だ。

 だから、初手で全力。

 横薙ぎの一撃を、ホブゴブリンは剣で防ぐ。

 ギイン、という音が響き、キコリの斧が弾かれる。

 こいつは、剣を使い慣れていると。キコリは一瞬でそれを悟る。

 今こいつは、剣の腹でキコリの斧を防いだ。刃が欠ける事を嫌ったのだ。

 そして剣持つ腕を素早く引き戻し、キコリへと斬撃を放つ。

 避けるには、もう遅い。だからキコリは、ホブゴブリンの股間に蹴りを放つ。

 たとえ何かを仕込んでいても、仕込んでいなくてもレッグガードがある。

 だからこそ……何も仕込まれていないそこに、キコリのレッグガードを着けた足が命中する。

 ゴシャッ、と。鈍い音が響いてホブゴブリンの斬撃は途中で停止する。


「ギフアッ……!?」


 剣を手放し、白目をむきかけるホブゴブリン。あまりにも無防備なその腕に、キコリは真正面から斧を振り下ろす。


「ギアアアアアアアアアア!」


 痛みに膝をつくホブゴブリンを見下ろしながら、キコリは斧を振り上げる。

 自分を睨んでくるホブゴブリンに、躊躇いなく斧を振り下ろす。

 卑怯者め、とでも言いたかったのだろうか?

 ああ、確かに卑怯ではあるだろう。この先どれほどキコリが有名人になったとして、こんなシーンは吟遊詩人も歌いたくはないだろう。

 だが、それでもキコリはやる。


「卑怯だって言いたかったのか? 仕方ないだろ。お前、強そうだったし」


 体格で負けている相手に剣の心得もあるなんて最悪だ。

 そんなものと真正面から殺し合いなんて、キコリはしたくない。

 そう、それが当然だ。それが生き物というものだ。

 だからこそ、ホブゴブリンから魔石を回収していたキコリは……背後からの強烈な蹴りを、受ける瞬間まで気付かなかった。

 飛ばされ、木に左肩を打ち付けて……キコリは、よろめきながらも振り返る。


「おいおい……マジかよ」


 そこには、3体のホブゴブリンの姿。

 手甲を着けた、如何にも格闘家といった風体のホブゴブリン。

 そしてハンマーのホブゴブリンと、斧のホブゴブリン。

 考え得る限り最悪の……完全に力負けする構成だ。


「ハ、ハハ……」


 手放さなかった魔石を懐に入れると、キコリは斧を握る。

 どうやって勝つ? いや、どうやって戦う?

 1体を殺す間に、どう考えても他の2体に殺される。

 下手をすれば1体すら殺せずに3体に嬲り殺しだ。


「逃がしては……くれないだろうなあ」

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