それが「何故か」が分からない

「分からない。逃げるのに必死だった」

「そう、か……」


 妖精が本気で逃げたら捕まらないかもしれないが、そうなると再集合は難しいだろうとキコリは思う。

 キコリが探すというのも、フェイムの反応からして難しい気もする。ユグトレイルへの義理を含めても、そこまでするというのも現実的ではない。


「まあ、見つかるようなら保護しよう。で、トロールについてなんだが、襲われたのは森でか?」

「そうだ。連中、木の葉や木の枝を被って、泥も身体に塗っていた。信じられるか⁉ 連中、森の魔力をも身体に纏っていたんだ。私たちに存在を気付かせないためにだ!」


 キコリが説明を求めてオルフェに視線を向ければ「妖精向けの偽装ってことね」と説明してくれる。


「気配の魔力版よ。あたしも想像でモノ言うけど、泥を身体に塗りたくることで漏れる匂いと魔力を消したんでしょうね」

「……そういやゴブリンも似たようなことやってたな。泥までは被ってなかったけど」


 勿論動けば一発で分かるのだから、最初の一撃で仕留めることを前提にした奇襲用であるのは変わらないのだが……それが上手くいったということなのだろう。


「泥、か。あの森に水場はなかったはずだけど……此処の温泉から汲んだってわけでもないだろうしな」

「別の魔力が混ざるでしょうから当然ね」


 そうなると何処かに水場があって、それを使って泥を作ったことになる。

 ということは……それは、恐らくはトロールの住処で汲んだものなのではないだろうか?


「となると、大分絞れて来るな」

「何がよ?」

「此処から繋がる場所で水場が無さそうな場所はとりあえず除外していいってことだ」


 トロールが妖精女王を殺すためにエリアを移動してきたのは確実だが、あまり長期の旅というわけではないだろう。

 泥が乾かない程度、あるいは水をたっぷり使えるほど運べる程度の距離のエリアにいるのは間違いない。ならば砂漠、あるいは乾いた荒れ地などのエリアは除外していい。

 そうではない、水が簡単に手に入りそうなエリアであれば……トロールがいる可能性も、高いだろう。


「確かにそうだな。それならば大分探しやすそうだとドドも思う」

「ドラゴン、お前頭が良いな。流石ドラゴンということか」

「キコリな」


 言いながら、キコリは考えている様子のオルフェを横目で見る。恐らく、オルフェも自分と同じことを考えているだろうと思ったのだ。

 そう、まだ解決していない謎はある。それもかなり大きな謎だ。


(それにしてもトロールは、どうやって妖精女王の居場所を嗅ぎつけたんだ?)

 

 まさか看板をつけて行動予定をビラでバラまきながら歩いていたわけでも楽隊を連れていたわけでもないだろう。

 なのに、トロールたちは見事に奇襲をやってのけた。

 それが「何故か」が分からないのは……喉に何かが引っかかるような、そんな気分であったのだ。

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