再戦
冒険者ギルド内がざわりとした後に静まり返る。三人がフードの魔法士を伴って入っていったからだ。
チャムのパーティー登録を申告する声に、背後から聞えよがしの非難の声が上がる。その声もチャムがブラックメダルを掲げて見せれば黙らせることが出来る。うるさい外野達も仕方ないという雰囲気を出す。
中にはやっぱりランク頼みという僻みも混じっていようが。
「チャムさんってブラックメダルだったんですねぇ? すごい動きしてるって思ってはいたんですけどぉ」
「そうよ、だから安心して後衛よろしく」
トゥリオのシルバーに続いて、いつもの儀式が始まる。
「僕はホワイトだから援護よろしくね」
「噓ですよねぇ、カイさん?」
「えー、僕弱っちいからフィノのお尻に張り付いてようかな」
「はいはい、さっさとなさい」
怒られた。
フィノもハイスレイヤーだった。
活動期間
パーティーで
◇ ◇ ◇
対
魔法士というのは基本的には得意属性が存在する。一属性扱えれば魔法士見習い、二属性扱えればプロレベル、三属性扱えれば有名魔法士への道というところ。四属性ともなると得意不得意があっても国家魔法士クラスだ。なのにフィノは一様に扱えるという。
「よほど魔法との相性が良いのねえ」
「そうなんでしょうか? ほぼ我流なんで魔力だけで力任せに発現させてるとこ有るんですけどぉ」
「それでさえ出来ないのが一般レベルなのよ」
彼女が正体を隠す為に他人との接触を避けてきたからこそ埋もれていた才能だろう。
フィノを後方に置いたトゥリオが受けて、カイとチャムで回り込んで包囲して遠距離攻撃で牽制しつつ、フィノの魔法で弱らせて動きが悪くなったところで止めを接近戦で刺す形で意見の一致を見る。
「チャムさん、遠距離有るんですか?」
「有るのよ、秘密兵器が」
「皆さんの攻撃は全体に秘密兵器っぽいんですけどぉ」
チャムにニヤリと笑われて気付いてはいけないところに気付いてしまったのかと思う。
宿場町の宿屋での打合せはこうして終わり、
◇ ◇ ◇
「
ゴウッと吹き付けた吹雪に反応して
牙を剥いて襲い掛かろうとするところへトゥリオが大剣を突き出し距離を空けさせる。
すると
畳みかける様に背後から低い振動音とともに
「
空いた時間に構成を編み上げたフィノが再び氷礫を浴びせかける。
先ほどからこれを延々と繰り返している。敏捷で攻撃力の高い
「ゴウォッ!」
ところが急に
「チャム、後ろ、近付いてきてる!」
「冗談きついわ」
木々を縫いながら物凄い速度でもう一頭の
「トゥリオ! それは二人に任せた!」
「解った! 気合い入れていくぜ、フィノ! 俺の後ろから絶対に出るなよ。完璧に守ってやるから攻撃に専念してくれ!」
「はい!」
壁のように大きな背中が心強い。
戦闘中だというのにフィノは少し笑みが零れてしまう。こんなに危機的状況だというのに心が軽い。託せる仲間と言うのはこんなに気分を変えてくれるのかと思う。
しかし、ここは集中しなければいけない。目の前の弱りつつある一頭を早く片付けて
◇ ◇ ◇
背後から迫った
踊り掛かってきた一頭に、下をくぐるようにして腹に剣旋を走らせるが、腹面も金属鎧片に覆われていて、耳障りな金属音を立てて弾かれる。
(オリハルコンの刃を弾くなんてどうかしてるわよ!)
そうは思うが事実は曲がらない。しかし、腹面を集中して観察したチャムには一つの可能性が見えてきていた。
◇ ◇ ◇
それでも一対一なら勝負にはならない筈だとも考えている。しかし現実として、この大柄とは言えない部類の人間は付いてくるどころか追い越されかねない速度を叩き出してくる。結果、回り込まれて拳打が飛んで来るのだ。
これは本当に
◇ ◇ ◇
全身が霜に覆われつつあるというのに
(もう一押し。何か決定打が要る)
ひしひしとトゥリオは感じる。背後のフィノも同じ考えなのか声を掛けてきた。
「トゥリオさん、どうにか剣を
「やってみる! 一回突き放してくれ」
フィノは氷槍を生み出して、順々に打ち込み
再び
それがフィノが待っていた瞬間だった。
「
紫電を放つ球体はトゥリオの大剣に吸い込まれる。その雷電は、滑り止めの皮手袋を着けたトゥリオには影響せず、その全ての雷エネルギーを
ビクンと痙攣して、動きが止まる。口と金属鎧片の隙間の所々から煙を上げる
「やったぜ!フィノ!」
「やりました!」
二人は一瞬、抱き合いそうになったが、他の二人の事を思い出して見回すのだった。
◇ ◇ ◇
チャムはプレスガンで牽制しながら、通り抜け様に剣を送り込む攻撃を繰り返している。注意深く観察して、
もう何度目かも解らなくなった交錯の瞬間が近付く。しかしこの回だけはチャムは剣を振り被らず、
(首の下。あの金属鎧片の
地面ギリギリに振り込んだ長剣。限界の集中力に引き延ばされた時間の中で剣を跳ね上げる。
長剣の刃は見事に金属鎧片の隙間に入り込んで斬り込んでいく。
立ち上がったチャムは思わず長剣を持つ右手を差し上げるが、すぐに思い直して見回すのだった。
◇ ◇ ◇
殴り飛ばされた
距離を取れば
敵わないと思ったのか身を翻して逃げ出そうとした相手に瞬時に近付き尻尾を掴む。反転して牙を立てようと大口が迫るが、片足を軸にクルリと躱して
「カイ!」
自分の相手を撃破したらしい仲間達から声が掛かる。だが、それに首を振って答えて、息を詰めて一気に腕に力を籠める。
ゴキリと首の骨が折れる音がして
◇ ◇ ◇
フィノは不思議でならない。なのでトゥリオに疑問をぶつけてみる。
「カイさんは強過ぎますぅ」
「そりゃそうだ。奴があの『魔闘拳士』だからな」
「へ!? ええええーっ!」
フィノの声は森に響き渡るのだった。
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