長会議
この
本来、長会議とは、
しかし、この
「先ほど回覧いただいた報告書の通り、ナーフスの栽培そのものは既に成功しています」
「そんな事が可能なのか?」
「信じられん」
長たちの反応は様々だが、そのほとんどは疑念交じりのものだ。
「事の真偽は後ほど。こちらが見本として持ってきた子株です」
レレムが袋から取り出したのは
「試した結果、このくらいの大きさが有れば移植しても育ちます。掘り出して既に
「それは成長すれば実を付けるのか?」
「デデンテ郷のナーフス園ではもう親株と言っていいほどに成長していますし、レレムが郷を出立した時点で、幾本も花を付けていました。帰った頃には花は落ちて小さな実くらいにはなっているかもしれません」
「今あるのは君の報告だけだ。何か証明する物は無いのか?」
議長役であるオスファル郷のトルンクが代表して質問してくる。
「真偽を証明する物証は有りません。何を持ってきたとしても群生地の物と何一つ変わりませんので物証にならないのです。なので、実際にデデンテ郷のナーフス園をお見せするしかないので、お時間が許すのであれば希望の方はご案内させていただこうと考えています」
「おお、それは是非」
かなりの者が乗り気になってきている。
「レレムにお聞きしたい」
「何でしょう?」
「栄養豊富な食物なのは承知しているが、あなたが言うようにナーフスで郷の食糧事情は一変するのだろうか?」
スーチ郷の長ムジップが確認するように訊いてくる。
「詳しい者に聞いたところ、ナーフスはツレ芋と同じ栄養を多量に含むと共に、密林の菜類に匹敵する栄養も含まれているそうです。ナーフスだけに頼るのは問題あるとの話ですが、菜類の収集が思わしくなくても十分に生きていけるくらいの効果があるようです」
「それほどのものか…」
「それだけではありません」
「まだ何か?」
トルンクがこれ以上の混乱を苦々しく思っているのは明確だが、ここでナーフス園の真価を教えないわけにはいかない。それをやれば後々、デデンテ郷が責められる事になり兼ねない。
続けてレレムは、ナーフス販売さえ考えている事、成功する公算がある事、契約商人の選定の為に
議場の混乱はここがピークになった。彼らにとっての常識は、商いとは人族が行う者であり、自分達には関係無い事柄なのだ。ところがデデンテ郷は自発的に買い手から売り手に変わろうとしている。人族の真似事をしようとしているそれは、彼らの常識を大きく逸脱する。
「商人との取引に関しては推奨するものではありません。ですがデデンテ郷は先駆者として挑戦するつもりであることをここに宣言しておきます。これを以って後の批判は受付致しません」
最後をレレムは強く伝える。無理強いするつもりなど皆目ないが、抜け駆けと批判されるのは業腹だ。それはここで断ち切っておかなければならない。しかも、それそのものが未知の領域であり、賭けの要素も多いとなればなおさらだ。人は成功者をどうしても妬んでしまう。釘を刺しておかねば要らぬ恨みを買う結果になってしまうかもしれない。その為の布石は打っておくつもりでレレムは主張する。
それでも頭の回る者であれば出遅れを感じて批判はしてくる。なぜもっと早くに報告しなかったのか、と。
「レレム自身、移植そのものが成功するかどうかの確信が持てずにいました。それが成功しているからこそ、ここで報告できるのです」
「先ほど『詳しい者』について言及が有ったが、この試みは君の発案ではないと受け取って良いのか?」
「そうです。
不公平感は拭えないにしても、レレム自身の落ち度はないと言える。
「ナーフス販売はフリギア商人を相手に行うのかね?」
「今のところはそれ以外の選択肢は無いと考えています。逆に絞ったほうが後々良い結果を生むとも思われます」
説明を請われたレレムは答える。
仮にナーフス販売が成功を納めたとする。そうなった時に、フリギア王国から見れば借地人が大儲けをして、立場が対等以上になったと取られかねない。その時の反応は様々想定できるが、最悪北方をナーフスの産出地として色気を出してくる可能性は高い。
獣人に分け与えず、自分達で管理しようと考える者は出てくるだろう。その場合に他所との交易まで考えている素振りでも見せれば、獣人の行動を危険視する勢力が勢いを増すだろう。
そうではなく、あくまで卸しの相手はフリギア王国に限定し、その後の輸出などは移譲するよう進めれば、譲歩の余地は生まれてくるはずだ。少なくとも、密林近くで生活するリスクとナーフスによる利益を天秤にかければ、どちらに傾くかは自明の理だと考えてくれるだろう。
後はどれだけ売れ行きが良かろうが、こちらが無駄に稼ごうと単価の引き上げなどに踏み切らない限り、その天秤に変化は生まれないと推測できる。
「まあ、皮算用しても仕方あるまい。試験的な販売はデデンテ郷に任せるとして、実用的な部分の疑問がもう一つある」
「どのようなものでしょう?」
トルンクは可能性の話を纏めた上で、当面の問題に話題を戻そうとする。
「それほど大規模な栽培をして、継続的な収穫が得られる物なのか? 我らはツレ芋程度の農業的知識しかないのだぞ。ツレ芋のようにし尿を与えるだけで構わないのか?」
「それに関しても提言をもらっています。し尿でもある程度は可能だそうですが、より有効な手段が有ると」
「ほう、教えてもらえるかね?」
「寿命で落ちた葉や枯れた木を蓄積しておいて、それにし尿をかけて発酵させる堆肥という肥料があるそうなのです。その為の場所も今、郷から一番離れた位置に設定して準備しています」
デデンテ郷の用意周到さには驚きを禁じ得ない。冒険者と聞いたような気がするが、農業技術者の間違いではないかとまで思えてしまう。
「解った」
「お解りいただけましたか?」
「とりあえず自分の目で確認すべきだろうという事もな」
「それが宜しいかと」
その後にトルンクは会議の終了を宣言し、レレムに自分を含めた希望者の案内を要請するのだった。
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