ロムアク村
当然、カイ一人では無理で、三人がかりで挫折し、
まずは腹側甲板を外す。
分割しているそれらを外していくと、すぐに内臓が出てくる。これを人間が食べるには下処理が必要なので横に避けていると、羽根の付いた処理班がやってきてガツガツと片端から消えていく。口元の汚れには言及しないであげて欲しい。
次に背骨回りの肉を切り分けていくと、天使の顔をした焼き班が目をキラキラさせながら搔っ攫っていく。その肩には薄茶色の小さい天使も居たような気がする。
背甲から脊椎を外すと、身体の大きい運搬班がやってきて「バラしとくわ」と運んでいった。それには助かったので特に文句はない。
あとは頭と四肢、尻尾を外す。
これらは後に皮を剥いで肉と骨に分ける。最後に背甲に付いた肉をこそげ取り、甲に残った骨膜は面倒なので変形魔法で取り外した。水を出して甲殻を全て洗い『倉庫』に格納。後から出た肉を焼き班に追加しておく。
頭と四肢の解体をしていたら、「焼けたよー!」とお呼びが掛かったので昼食にした。
少し固いが深みのある味が皆を満足させる。これは骨で取った出汁で煮込んでも皆を唸らせる事だろう。
かなり時間を取られてしまったので、その
◇ ◇ ◇
翌朝、広域サーチを使うと近辺に村落らしきものが有ったので、そこに向かった。
周囲に広大な畑を持つ村が見えてくる。傍に
彼らはすぐにカイ達の姿を認め、突進してきた。
「なになにー、兄ちゃん達冒険者ー?」
「でっかい鳥だー!すげー!」
「え、あの人、めちゃくちゃ綺麗…」
「剣だー!剣持ってるぞー!」
姦しい事この上ない。
「ねえ、君達、ここは何てところ?」
「ここはロムアク村です。ようこそ」
一番年嵩らしい女の子が代表して答えてくれた。
「僕はカイだよ、君は?」
「…リリアナです」
頬を紅潮させて恥ずかしげにしている。外の人間には不慣れなのだろう。
「じゃ、リリアナちゃん、村長さんの所に案内してもらっていい?」
「はい、こちらにどうぞ」
リリアナに先導してもらい、子供達に取り囲まれながら村長宅に向かった。
村長宅に辿り着く前に子供達が自動的に先触れに走った。
「ガドじーちゃーん!お客さんだよー!」
「お客さーん!」
「冒険者ー!」
わざわざ声を掛ける必要もなく全てが終わってしまいそうだ。
「なんじゃなんじゃ騒がしいのう。お客だと?」
「こんにちは、村長さん。旅の途中で寄らせていただきました。しばらく滞在させてもらいたいのですが、構いませんでしょうか?」
「おお、これは丁寧にどうも。何もない村ですがお好きなだけどうぞ。幸い宿屋もありますじゃ。ところで皆さんは冒険者で?」
心当たりがあったようで、目を瞬かせている。
「はい、流しの冒険者です。何かお有りですか?」
「どうも近くに野盗どもが巣食ったようで、ベックルに人をやって依頼を出したのじゃが、ご存じない?」
「あいにく存じ上げません。ですが問題無く対応させていただきます。ご安心を」
「おお、それは助かる。今は青年団の者達に夜警を頼んでいたんじゃがこれで安心じゃ」
村の青年団と身体強化能力を持つ冒険者では雲泥の差がある。村の安全に貢献できるなら否やは無い。
「
村長への挨拶が終わるとロムアク村を見て回らせてもらう。
村にはかなり大きめの倉庫と何かの工場のような建物が見えた。
「あの長い煙突のある建物は何?リリアナ」
「あれは作業場です。ティッチリの加工をしているんです」
「ティッチリ?」
チャムが解らなかったところをみると、そんなに一般的な産品ではないらしい。
「見学させてもらえるのかな?」
「はい、ちょっと待ってください。訊いてみます」
「ありがとう、お願い」
しばらくするとリリアナが戻ってきて「どうぞ」と招く。
「お邪魔します」
「どうしたんだい、あんた達。冒険者には全然関係ないところだよ?」
「お仕事の邪魔をして申し訳ありません、ご婦人。気になったので寄らせてもらいました。ご迷惑であれば退散いたしますので」
相手が冒険者だと聞いて、横柄な人種だと思っていた女性は鼻白んだ様子で戸惑いを見せた。
「いや、ごめん。構やしないよ。入りなさいな」
「ありがとうございます」
作業場内に入ると途端に甘い匂いが強くなった。
外まで漂ってはいたのだが確証には至ってなかったのだ。作業場内の脇には直径が
(これは
カイは気付いた。
「お砂糖を作っていらっしゃるのですね?」
「よく解ったね。そうだよ。ここで茶砂糖を作ってるんだ」
「この野菜から砂糖が出来るの、おばちゃん?」
チャムは目を丸くしている。
「ああ、甘いよ。ティッチリから採れる砂糖は」
「ふぁー! 知らなかったー!」
この世界で主に用いられている砂糖は二種類。
貴族、王族などは白砂糖を使用している事が多く、これの原料は様々な果実だ。
果実の種類によって多様な味と色があるが、色は薄っすらと付いている程度で基本的に白い為、白砂糖と呼ばれている。どの種類もおしなべて高価で庶民には手の出しにくいものだ。
茶砂糖というのがこのティッチリから採れる砂糖だ。
各地で大量に生産され、一般に広く普及している。市井で用いられているのは基本的に茶砂糖だと思っていい。その名の通り琥珀色の粉末状になっている。味には癖が無く、白砂糖よりコクは深いが香りに乏しい。
カイ達は作業風景を見せてもらった。
まずはティッチリを削るところから始まる。大きなティッチリの中央にハンマーで軸を打ち込み、台の上に伸びたループ状の腕の上部と台上の歯に軸を取り付けて固定する。
台の下にある足車を踏めばティッチリが回転を始める。あとは回転するティッチリにピーラーのような削り具を沿わせば平たい紐状にティッチリが削れていく。
(これはアレだ。かんぴょうの生産風景だね)
カイには思い当たる風景があった。
削られて紐になったティッチリは、銭湯の風呂桶ほどもある煮釜に放り込まれて煮出される。
これは煮出す時間効率を上げるために削られているのだろう。確かに一個一個小さく切り分けるよりは削るほうが早いのでこの方法が採られているようだ。
後は煮出した上澄みを別の窯に移し、煮詰めれば粉末の砂糖になる。
この工程に俄然興味を示したのがチャムだった。
「お、おばちゃん、私に削らせて。お願い…」
「ど、どうしたんだい。別に良いけどさ」
どうぞとばかりに席を譲る夫人。
チャムが足車を踏むとティッチリが高速回転を始める。そこへ彼女がそっと削り具を触れさせると、薄く帯状に削れたティッチリが飛んでいく。その飛んでいく様子を見ていたチャムの目がどんどん笑みの形に変わっていっている。
「はは…、あはは…。あははははははははは! たーのし ───── っ!」
完全にティッチリ削りに夢中になっていくチャム。
カイは思った。
(
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