楽しい潜伏生活(7)
ご機嫌なのか勢いよく左右に振られているが、濡れそぼって痩せ細っているそれは今一つ精彩を欠く。それでも、パンと張ったお尻から生えているそれが水を弾き飛ばす様は健康的な色気を発散している。
泳ぎたいと言い出したのがチャムだったかフィノだったかは今は曖昧になってしまったが、それを彼が非常に喜んだのは間違いない。いつ作っていたのかなど窺い知ることは出来ないが、見るからに完成度の高い水着をいそいそと取り出し、女性陣に提供する。
「
「この面積で防刃性や耐魔法性にどれだけ意味があるのか、詳細な説明を求めるわ」
「あははは、ちょっと恥ずかしいですぅ」
白いビキニは濡れた時に透ける懸念を彼女達に抱かせたが、その辺りは十分に配慮が為されているようで問題は無かった。
とは言え、胸元や下腹部などはきっちり覆われているもののその面積は決して広くは無く、彼女達はその見事な肢体の大部分を晒している。
「恥ずかしいなんてとんでもない! これは芸術だよ! 至高の美だよ! 君もそう思うよね、トゥリオ?」
「う、いや。まあ……」
「ちょっと! はっきり言って! 余計に恥ずかしくなるじゃない!」
褒めそやされるのも、口篭もられるのも本人達には恥ずかしいの一言だ。非常に両極端な二人である。それでもカイの純粋なる賛美に悪い気がしないのが女性という生き物かもしれない。
そんな複雑な心境も、四人で湖水に向けて駆け出し、水を掛け合うなどして遊び始めたらどこかに飛んで行った。
水飛沫の中で楽しげに笑うチャムに、カイはつい見惚れてしまう。
透き通るような白い首の上には、流麗な曲線を描くおとがい。それに続いて世にも稀なる美貌がある。艶やかな桜色の唇に、筋の通った形の整った鼻、新緑を思わせる瞳の奥には理知と品性が宿り、藍色の睫毛に彩られている。腰まである長い真っ直ぐな青い髪は今は濡れて深い青を見せていた。
その下には、フィノに隠れて目立たないが、
隣に目を移すと、最近とみに見せるようになった朗らかな笑顔をしたフィノの姿。
所々にブチは有るが、純白の毛皮に覆われた首の上には、少ししっかり目の顎がある。しっとりと濡れたピンク色の小さな鼻の下には、犬特有の線を描くおちょぼ口、煌めく大きな青い瞳は可憐で、焦げ茶の睫毛も長い。肩口で切り揃えられた栗色の髪は緩やかに波打ち、細く柔らかに見えた。
その下にバンと張り出した双丘は
究極の美とも言える肢体に、艶やかな色気を隠し切れない肢体が並んでいる様を見せられれば、カイでなくとも見惚れるのは致し方ない事だろう。
「そんなに見つめられるとさすがに恥ずかしいわよ」
そうは言うが特に隠そうともせず、佇むカイを腰に手を当てて見上げてくる。
「無理言わないでよ。君達に見惚れない男が居るなら、それは目がどうかしているとしか思えないから」
「もう。また真顔でそんな事言うんだから」
「はわっ! フィノなんてチャムさんと比べたら見せられたものじゃ」
「そんな事は絶対無いね」
「おう! それだけは俺だって断言できるぜ」
「あうー、恥ずかしいですぅー」
フィノは身体を隠して後ろを向く。またその仕草と、腰のラインがどれだけ艶っぽいのか自覚が無いのだから始末に困る。
「いい加減にしないと着替えちゃうわよ?」
良い笑顔で言ってくるのだから、それは冗談だとすぐに分かる。
「うん、どうせ無理だって解っているからこれくらいにしておくよ」
「あら、素直じゃない」
「常々、気持ちや行動じゃなく言葉でしかちゃんと伝わらないって言っているけど、女性の美しさを形容するのだけはどれだけの語彙を手に入れれば言葉に尽くせるのか? それは今後の課題だと思っているんだ」
「そんな、まだまだこんなものじゃないぞって言われても、何て答えれば良いのか解らないわ」
「何も考えずに受け取ってくれればそれで満足」
「困った人」
チャムは人差し指で軽く胸を突いてくる。少し頬を染めているのだから、彼女の心が近付いてきていると感じる。
(でも、今は望まない。生きている意味を見失いかけて異世界に何かを求めてきた時、チャムは快く受け入れてくれた。だからあの時心に誓ったんだ。僕はこれから彼女の為に生きるって。彼女の為に戦い、彼女の望みを叶え、彼女が望むように在る。何者にも邪魔させたりなんかしない。その為に世界を救えって言うのなら救うし、世界が敵に回るなら滅ぼして見せるよ。その先に何があろうと、君の側で君を守る。それが僕の望みだ)
どれだけ傲慢に思えようとカイは不動の意志を貫くだろう。自分の望みを叶えているように見えて、彼の行動原理は、その正義の信念に基いた害悪の排除と社会の安定に向かっている。それはチャムが生きる世界が平和で安定していればそれで良いと考えているからだ。
どんなに遠回りでどんなに手間暇が掛かろうと、それで彼女の安全が確保されるならそれでいい。その為の準備なら、何一つ惜しむ事などしない。だからと言って、絶対に命を投げ打ってまで無理しようとはしない。それではチャムの心を守れないから。心も身体も何もかも守り切るのだ。それでこそ守っていると言えると彼は信じている。
今もチャムは笑っている。大きいほうの身体で泳いでいるリドに寄り添って楽しそうに泳いでいる。フィノも、あまり泳ぎが得意でないトゥリオに付き合って浅場でバシャバシャとやっている。
「カイも来なさいよー!」
身体は軽くて水に浮いても構造的に泳げない
「うん、すぐに追いつくよ」
「逃げるわよ、リド」
「ちゅい!」
カイは、この世界で最も大切な
◇ ◇ ◇
「お風呂入るの、カイ」
薄着のまま涼んでいたチャムが問い掛けてきくる。
「入るよー、食器洗い終わったから」
「じゃあ、こっちに来て。お風呂の前に髪切るから」
「んー? もう?」
「何言ってんの? 前に切ったの、スリッツだったでしょ?」
「そうだっけー」
椅子を出して、身体を布で覆われて散髪を受けるカイ。
「チャムさん、前髪もっと切らないといけないんじゃないですかぁ?」
「こんなもので良いのよ」
「それってチャムさんの好みでしょ?」
以前は全体に伸びた分を短めにしていたのだが、最近は前髪やもみあげが長めにされていて、それがフィノは気になったのだ。
「そうよ。私が管理しているんだから良いの」
ニヤニヤとしているフィノを放っておいて、身動き取れないカイの両頬に手を当てて、正面からジッと見る。
「ただでさえ童顔なんだから、短くしたらまるで子供みたいなんだもの」
見返していたカイは、そっと目を閉じた。
「何、キスされるみたいな顔してるのよ、バカ」
額をペシンと叩かれた。
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