復讐鬼(1)
「先日、お伝えしたニュースの続報です。
虐めを苦に自殺したと指摘される少年が通っていた中学校で保護者説明会が行われました。
事実確認を求める保護者に対して学校側は現在調査中であるとの回答を述べるに終始している模様です。
説明会には少年の担任教師の姿は無く、学校は現在療養中であるとしています。
事態を重く見た県教育委員会は、校長への聞き取り調査を行い、虐めの有無を確認する方針であると発表しました。
では、この問題に関して説明会に参加した保護者の声です。」
◇ ◇ ◇
(冗談じゃないぞ、自殺なんかしやがって。あれほどその内飽きるだろうから我慢しろって言ったのに。流堂のやつ)
中学教師・後藤博之は自宅に籠って出られないでいた。いつマスコミが嗅ぎつけるから解らないので極力外出は控える様にと学校からのお達しもある。
(こんなとこで終わってしまうのかよ、俺。苦労して教員採用試験に合格して担任教師を地味に勤めて、あと十年くらいしたら学年主任になって、もう一頑張りしたら教頭くらいにはなれるかと思っていたのに。そうすりゃ定年後は恩給と年金でのんびりやれて、老後も安泰って計算してたのに。あいつが自殺したおかげで経歴に傷が付くだろうが!)
思考はどんどん拓己を非難する方向へ落ちていく。
(大体だ。学校の屋上から飛んだりするんじゃないよ。バレバレじゃないか。死ぬんならどっかの森にでも行って首を吊れば……)
「ピンポーン!」
(何だ?こんな時に。今日はまだ出前を頼んでいないぞ?)
ノックの音の後に訪問相手が声を掛けてきた。
「こんにちは。いらっしゃいますよね、後藤先生。僕は流堂拓己くんの知り合いです。少しお話を聞きたいんですけど?」
扉の向こうから聞こえる声はまだ子供っぽい音程の高さを残している。その事から少年であると解った。
「居留守を使ってもダメですよ、後藤先生。謹慎を命じられたのは学校で確認してあります。僕の質問に幾つか答えてくれるだけで結構なんですけど」
(くそっ! 学校は俺を売りやがったのか?)
仕方なくチェーンロックを掛けたまま応対に出る。隙間から見える相手は間違いなく少年だった。にこやかな笑顔には見覚えがあるような気もするが、彼の言葉がそれを裏切った。
「何だ、君は?」
「初めまして、後藤先生。先ほども申しましたが、僕は流堂拓己くんの知り合いです。確認ですが、拓己くんはあなたに虐めの事について相談していましたよね?」
少年が流堂を下の名前で呼んだ事で本当に親しかったのかもしれないと思う。
「そんな事実は無い。それは学校にも説明した筈だけど?」
「嘘ですね。僕は警察が押収した遺書の内容を知っています。そこにはあなたの名前も有りましたよ?」
「それこそ嘘だ。遺書の内容は公表されてないぞ」
「へえ、白を切るつもりですか? 別に構いませんよ。ここに拓己くんが僕だけに宛てた遺書が有ります」
少年は一通の封書を差し出して続ける。
「ここにはあなたとの遣り取りも詳細に書かれていました。これでも認めないんですか?」
「それを寄越せ!!」
思わずチェーンロックを外して飛び出した後藤だったが、封書をその手にする事は叶わない。少年が身を躱して隠してしまう。
「お前!」
「やっと出て来てくれましたね? 改めて名乗ります。僕は流堂櫂、拓己くんの従兄弟です」
「どうやってここを?」
「中学校に行って遺書をチラつかせたら快く教えてくださいましたよ?」
本当に学校は後藤を切り捨てる気かもしれない。
「何の用だよ? 流堂櫂くん?」
「警戒しないでください。そんなに難しい事ではありません」
名前を覚えたぞ、と睨みを利かせてくる後藤に呆れた櫂だが無視して続ける。
「加害生徒の住所を教えてください」
「そんな事が出来る訳ないだろう?」
「ええ、さすがに中学校も教えてくれませんでした。だからあなたに訊きに来たんです。教えてくれますよね?」
さも当然のように言う。
「出来ないと言っているじゃないか!」
「良いんですか? そんな事して。僕はこの遺書をマスコミに公表しますよ?」
「な! 脅すつもりか!?」
顔が歪むのを抑えられない。
「ええ、脅しています。だからさっさと喋ってください」
「み、認めないぞ、俺は! 学校もな! そんなの流堂の空想の産物だって言ってやる」
「そうですか。じゃあ仕方ないので試してみましょう。学校や担任教師の見解と、被害生徒の親類の証言と、マスコミはどっちを大きく取り扱うと思います?」
「待て!」
身を翻した櫂を後藤は呼び止める。
「解った……。ちょっと待ってろ……」
担任教師後藤は陥落した。
◇ ◇ ◇
『警告 直ちに自首して虐めに関する全てを自白しなさい。さもなくば君達は後悔する事になるでしょう』
そんな書面が三軒の家の郵便受けに投げ入れられていた。
◇ ◇ ◇
一週間後、既に夕暮れを越えようとしている時間帯の街に三人の少年がたむろしている。
「おい、あれ見たか?」
短髪をを逆立たせた一場大輔が口火を切る。
「見た見た。警告だってよ。何だっつーの」
坊主頭に眉のほとんど無い河野進が応じる。
「今時そんなのねえだろ? ひゃひゃひゃ」
長髪に耳に幾つもピアスを付けた草田礼二が茶化す。
親には多少追及されたが、知らぬ存ぜぬで通した三人は警告文の事を笑い話にしようとしている。
「どこからバレたんだよ。学校からバレる訳無いよな。あいつらは無かった事にしたいんだからよ」
それは一面事実である。中学校は彼らの事を把握していた。だが、事情を聞けばどこから漏れ出るか解らない。その為に一切関与せず、隠蔽しようと図っていた。
「だよな。お前ら、大丈夫なんだろうな?」
「何で自分から喋らなきゃなんねえんだよ。こんなんで捕まる気はねえぞ。玩具が一匹死んだだけだろ?」
「そうだぜ。まあ、捕まったところで俺ら少年Aだし。何てこと無いし」
「じゃあ、お前、捕まってみろよ。箔が付くかもしれないぞ」
「おお! そいつは悪くねえな。って、お前、バカかよ。そんな事する訳無いっつーの」
「ははは!」
「ひゃひゃひゃ!」
「ウケるー!」
笑い声が裏道に響いている。
「おい、あれ、鷺原じゃねえか?」
「ああ、間違いない。鷺原だ」
「相変わらず可愛いな」
三人は一人の少女の後姿を見つけてこそこそと話す。
「なあ、攫ってヤっちまわねえか」
「おい、そりゃ……」
「考えてみろ。動画撮っといて脅したら後はやりたい放題だぜ」
「……悪くないな」
「やるか?」
三人の少年達は新たな被害者をその牙にかけようとしている。
その背後にもっと強大な牙が潜んでいるとも知らずに。
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